武漢近況その11 (2009年11月)


日本のイメージ、環境の国、ストレス社会

 11月は、紅葉狩りにでもでかけようと思いましたが、なにやかやでままならず、ほとんど宿舎と大学の往復で過ごしました。たまたま日本の広島の大学で中国人による日本語作文のコンクールがあり、その関連で、私の作文の時間に「感じる日本」というテーマで作文を書かせました。今回は、その中から学生達が感じた日本をまとめてみたいと思います。

 学生達のイメージで最初に浮かぶのが環境立国日本です。自然を愛し、大切にする日本、空気がきれいで、自然が豊かな日本、そして、ゴミの選別収集に徹する環境保護への「素養」が高い日本人ととてもよいイメージが続きます。昔は公害で悩み、現在は京都議定書の達成が危ぶまれる日本の姿を見ると、とてもそんなりっぱなものではないと思えるのですが、学生達から見れば、経済開発を優先して走り続ける中国の現状を日本のそれと対比すれば、その違いが鮮明になるのかもしれません。

 続いて来るのが、技術立国日本のイメージです。テレビと家電のナショナル、東芝、パソコンのソニー、デジカメのキヤノン、電子辞書のカシオと、学生達からはスラスラと日本のブランドの名前が出てきます。家電と携帯で韓国メーカーに抜かれそうな日本ではありますが、学生達にとってはまだまだ先端技術と高品質のブランドとして日本製品への信頼は高そうです。学生の作文で、高校時代に愛用したソニーのウォークマンへの愛惜を綴ったものがあったのには少し驚きました。

 そして、さらに大きいのが、アニメ、映画、音楽、ファッションと続く日本のソフト産業です。80后(80年代生まれ)の学生の親の世代は、「おしん」と高倉健に熱中し、学生達は、「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」「スラムダンク」で育ち、現在は、「ナルト」や「犬夜叉」だそうです。また、「1リットルの涙」などシリアスで感動的なテレビ・ドラマ、ディテールにこだわった恐怖映画も人気が高いようです。私の疎い世界ですが、なぜ日本の音楽やファッションがアジアでこれだけ受けるのか、未だに分かりません。

 さすがに日本語科の学生だと感心させられるのは、モノの世界に限られず、ヒトの世界にも目を向けてくれています。礼儀正しさや相手への気遣い、「ありがとう」や「すみません」の精神、まじめで努力家の日本人への信頼は大きなものがあります。

 反面、戦争や歴史観は除くにしても、マイナス・イメージとして真っ先に上がるのがストレス社会です。日本の会社員達は昼も夜も働いて、連日強いストレスに苦しんでいるようです。その原因は、長所でもあるまじめさや気遣い、そして、集団主義的な意識だそうです。さらに、日本には男尊女卑が残り、専業主婦が普通なようです。

 こうしたマイナス・イメージは折に触れて説明してはいるのですが、断片的には真実もあるので、なかなか本当の姿を理解してもらうのは難しいものがあります。

 

厳しい就職活動

 以前にも書きましたが、今年はいつになく就職活動が早く始まりました。中国では、現在がちょうど前半の活動時期のピークにあるようです。大学で就職説明会がありますが、そこで受け入れられるのは武漢大学、華中科技大学の全国的トップ校のみ、二流、三流校は苦戦を強いられます。インターネットでの求人にたくさん履歴書を送りますが、ほとんどが梨の礫。仕方なく、学生達は出身地の大都市や、広州、北京、上海などへ就職活動に出かけます。もちろんどこからも交通費はでませんから、普通や急行列車で十数時間もゆられて行くことになります。親戚や同郷の知人、地元大学の友人など伝を求めて泊り込み、何週間もかけて就職活動を行います。運がよければ、アルバイトとして会社で働き、そこで認められれば卒業後に正社員として採用されるといった按配です。

 日本との大きな違いは、新卒採用があまり特別視されず、既卒採用との区別もはっきりしていないことです。従来は、日本語科は売り手市場の人気学科でしたが、最近では、大学の数が増えたことと、不況で撤退した日系企業が多かったりで、厳しい状況にあるようです。実は、昨年6月の中国の大学卒業生の実質就職率は67割前後で、まだ、34割の卒業生が求職中だといわれます。先日、日本語科の男子の卒業生と飲む機会がありました。彼は日本語の能力はなかなかのものがありましたが、職に恵まれず、同窓生とアパートをシェアして、近くの語学学校の臨時講師をしながら、チャンスを求めて就職活動中です。現在の4年生もこうした先輩達と就職戦線では戦わねばならず、いやが上にも厳しさが身にしみるようです。

 

11月に雪が積もる

 今年は暖かい秋が続きました。武漢や南京は通常、残暑が長く続き、それが終わるとあっという間に冬に入るのですが、今年は暖かい、少し汗ばむような秋の陽気が続いていました。それが一転、16日に積雪がありました。朝、授業をしていると、どんどん雪が降ってくるのが見えました。午前中授業が終わる頃には、もう数センチほどの積雪となりました。幸い、雪が降ったのはこの日だけで、翌日には解け始めました。それでも11月のこの時期に積雪があるのは、武漢でももう何年ぶりとのことです。少し前に、北京で大雪が降って、飛行場が使えなくなったというニュースが流れていました。季節はずれの積雪で、中国の各地で被害が相次いだようです。湖北省も16日の雪で農作物や家屋の倒壊などの被害が報道されていました。積雪は校庭を真っ白に覆い、学生達は携帯で写真をとっています。南湖もいつになく冴え渡り、清冽な趣を湛えていました。

 寒さのためか、最近、武漢でも新型インフルエンザが騒がしくなりました。民族大学でも学生が1名感染したと噂が流れています。市内の中学では休校になっているところも多いようです。学生が心配してくれて、漢方の予防薬を買ってきてくれました。「連花清瘟嚢」という薬で、予防だけでなく治療にも効果があるといいます。市内では、何回も売り切れになり、そのたびに少しずつ値段が上がっているようです。学生や先生方は半信半疑ですが、無いよりはましという感覚で服用しているようです。そういえば、今しがたメールで、教師達にもH1N1ワクチン接種の連絡が入りました。あまり大事にならなければよいのですが。日本ではどうなのでしょうか。お互いに自愛したいものです。