武漢近況その9 (2009年9月)


7年目の新学期

 新学期は831日から始まりました。中国は9月から入学ですので、文字通り新学期です。今学期は3年生、4年生の担当です。担当授業は7クラスとだいぶ増えました。授業の始まる前日に教研室へ顔を出すと、机の上に変更になった時間割がおいてありました。それを見ると、毎日授業があり、しかも全て1時間目からです。おまけに月曜と金曜が2クラスずつで、午前中いっぱい授業です。重い週末になりそうです。科目は、日本の経済と社会、文学、作文の三科目で、文学は重点科目として週2クラスあります。そろそろ4週目に入りますが、毎朝6時に起きて、7時半に授業に出かけるという規則的な生活を送っています。

 例年通り、1週間送れて1年生の入学手続きが始まりました。ほとんどの新入生が大きな荷物を背負った親に付き添われて入ってきます。大学生でも親掛りかと授業で学生をからかうと、ほとんどの新入生が遠方の出身で、親たちはこれを機会に子供の大学を見学し、おまけに武漢を観光して帰るのだと言っていました。全寮制という規則は別にしても、上海を除くと日本のように都市交通が発達していないので、自宅から通学可能な学生はクラスに12名しかおらず、結局、学生寮が必須になります。翌週から新入生の軍事訓練がはじまりました。昨年は気がつきませんでしたが、初日に整列した学生たちを見ると、カーキ色の戦闘服ではなく、ベレー帽をかぶり、ブルーの半袖シャツに男性は青、女性は赤のネクタイ姿で整列しています。教官たちも白い海軍風仕官帽子に白い開襟シャツと颯爽としています。何でも民族大学では、陸軍ではなく、海軍が訓練を指導しているとのことです。軍隊の性格は世界共通なのでしょうか。

 

中国の居心地

 2003年の9月に蘇州へ赴任してから、7年目に入りました。最初は、オリンピックが終るまで頑張ろうと思っていましたが、そのオリンピックも昨年終りました。来年はいよいよ上海万博を迎えます。なぜ飽きずに続けられるのかと振り返ってみました。もちろん教師という職業もあります。若い学生といつも一緒で、慕われるという環境は得がたい幸せです。しかし、なぜ中国にと考えると、私には中国の緩(ゆる)さと懐かしさだと思えます。緩さとは中国社会のだらしなさ、あるいは、いいかげんさといった感じです。交通規則はありますが、赤信号でも人やバイクは無視します。交差点で鉢合わせをすると、先を争いますが、負けた方はおとなしく譲ります。日本では相手の強引さを声高に非難するところですが、こちらでは割り込まれた方は黙って待っています。街中で相変わらずポイ捨てが多いのですが、でも私には日本の清潔な環境にある種の緊張を感じます。日本では最近、犬の散歩に飼い主が糞の処理袋とペットボトルを持って歩きます。犬が小便をすると飼い主が水をかけます。南京では糞の処理袋を持った飼い主をたまに見かけましたが、武漢ではほとんど綱もつけずに散歩させています。そればかりか、古い横丁に入ると、犬や猫が放し飼いです。買い物をすると店員はつっけんどんですが、本当に困ると他のお客を無視して丁寧に説明してくれます。それでも分からなければ、英語のできそうなほかの店員を呼んで来てくれて、何とか助けようとしてくれます。私にはこうした緩さに居心地の良さを感じています。

 中国の街中を歩いていると、ある種の懐かしさを覚えます。まず、回りの人々の顔付きに違和感がありません。時たま、見るからに中国という顔や新疆系の顔立ちもありますが、こちらも歩いていて浮き上がっては見えないでしょう。豪壮マンション街や繁華街の表通りは別ですが、少し横丁に入ったり、古いアパートが群がる居住区に入るとてんでんの格好をしたオトッツァンやオバサンたちが外に出て無駄話をしています。さすがに鼻垂れ小僧はおりませんが、老人たちが小さな孫の手を引いて、めんどうをみています。小さな売店の店先では店員が立ったままどんぶりを片手に飯をかっ込んでいます。時々パジャマ姿で出歩くオバサンも見かけます。あまり豊かではなさそうですが、でもエネルギッシュです。こうした居住区を散歩するとどことなく懐かしさを覚えます。ちょっと前に建てられたアパートでもメンテナンスが悪いせいか、外側はすぐに煤けて汚く見えます。しかし、いったん室内に入るととても清潔です。昔、「日本の街は汚いが、でも日本人の家の中は塵一つ落ちていない。」と自慢したものですが、ちょうどそんな感じです。もちろん最近の中国にも瀟洒な近代建築はありますが、しかし、こうした古い居住区の方が安心します。

 こうした緩さや懐かしさが、中国にいる居心地をとてもよくしてくれるように思えます。

 

もうすぐ国慶節が

 先日、学生とペットの話をしていて妙なことを聞きました。中国でも大学生の恋愛は盛んです。中には、大学に内緒で、近所のアパートで同棲を始めるカップルもあります。こうしたカップルの中では、ペットを飼うのが流行っているそうです。小鳥や、ハムスター、ウサギ、さらには犬や猫を飼うものも少なくないようです。悪いことに、これらのカップルが別れたり、あるいは、大学を卒業していくと、飼っていたペットの処分に困り、そのまま捨ててしまう者もいるようです。捨てられた犬が悪さをするので、大学の警備員が処分したという話もあったそうです。こんな話を聞くと、緩やかな中国の一方で、都市化の先端を走っている側面が覗きます。

 もうすぐ101日、国慶節を迎えます。今年は、建国60周年で、大規模な祝典が開かれます。大学も1日から8日まで休暇になりました。もっとも、7日と8日は振替えで、前後の土日に授業をしなければなりません。北京の天安門では、10年ぶりに軍事パレードや大規模な民衆のパレードがあります。テレビでは連日その演習の模様を放映しています。18日には最終リハーサルが行われ、陸海空から、ハイテク、特殊部隊、そして、女性部隊まで延々と行進したようです。天安門に続く、長安街や建国門街の大通りはその度に交通規制が激しく、日本大使館では業務の一部を休館にすると通知がありました。外国人が北京へ入ろうとすると、厳しいチェックにさらされます。

 折角の休みですから近場を旅行しようと、動車(新幹線)をチェックすると、ほとんどが売り切れ、しかも学内にある切符の代理店は学生たちで長打の列でした。おそらくホテルを探すのも至難の業でしょう。ちょうど、「建国大業」という映画が封切られました。抗日から、国民党との戦い、共産党による建国までを莫大な費用をかけて作り上げた超大作記念映画です。日本でも有名な成龍(ジャッキー・チェン)、李連杰(ジェット・リー)、章子怡(チャン・ツィイー)など、中国の100名以上のオールスターが全て出演するという豪華さです。毛沢東のそっくりさんは唐国強という俳優が演じています。最近、毎晩テレビで予告編が流れます。行く所がなければこの映画を見に行ってみます。

 20日を過ぎてから、涼しくなりました。半袖では少し肌寒いほどです。今日もからりと晴れ上がった秋日和でした。来週から連休が始まります。この調子で好天が続けばと思います。国慶節の祝典は部屋のテレビで見物して、その他の日は、旅行を諦めて、漢口や漢陽など隣の都市を探索してみようと思っています。