蘇州近況その4 (2004年1月)


静かに年が明けました。皆様の年明けはいかがですか。こちらは、3031日と薄曇で寒かったのですが、元旦の朝から温度があがり、それが霧となって、一時はほんの先まで視界が覚束なくなる程でした。ですが、霧が晴れるとともに、暖かな正月となりました。中国の正月は、(春節というそうですが、)今年は122日ですし、学生達は14日から期末試験の山場となりますので、特別なことは何も無い平穏な正月です。それでも、大晦日には、蘇州TVが寒山寺の除夜の鐘の模様を実況しておりました。境内は大半が日本人の観光客でごったがえし、住職と蘇州市長の挨拶は日本語の通訳付きという有様です。鐘の音はさすがに聞こえませんでしたが、0時になると、いろいろな所で上げる花火の音が響きました。こちらは、大晦日の夜には、同僚の先生とお世話になった中国人の先生達をお呼びして、会食を致しました。また、元旦には、これも同僚の先生の心尽くしのお雑煮を他の先生方とご馳走になりました。

ところで、おなじ大晦日にうれしいことがありました。IBMで上司だった方がご家族で上海へ年末年始を過ごしにいらっしゃったのですが、上海から、わざわざ車をチャーターして、蘇州まで足を伸ばしてくださいました。ちょうど、期末試験が2930日で終わり、成績も31日の午前中には教務へ提出できましたので、蘇州を案内することができました。まずは、昼食に近くの我々日本人教師がよく使う水郷楼という料理屋にご案内しました。いつも先輩の教師の方が注文してくれるので、未だにメニューが読めず、事前に書いてもらった主な料理のメモを小姐に見せて、何とか蘇州名物の鴨舌の前菜、メインに松鼠桂魚をオーダーできましたが、後はむしろ、ご家族の高校生や中学生のお子さん達がガイドブックを見てあれこれ注文する方がよく通じる始末です。幸い味の方は喜んでいただけたので、やれやれといったところでした。食事の後、蘇州大学を車で回ってもらい、それから、世界遺産の中国古典庭園の拙政園や、昔の城壁の跡がある盤門を観てもらいました。残念ながら冬のため、拙政園では有名な蓮池の蓮が一つも無く、また、庭にはあまり花も咲いておりませんので、いささか殺風景な情景でした。他にも蘇州の運河や新区や園区の工業開発区の模様などご案内したかったのですが、半日ではこれで精一杯でした。蘇州の様子を少しでも楽しんでいただけたか心配ですが、こうして近況をお送りしている方が尋ねてこられるのはうれしいものです。

12月に入ってからの蘇州ですが、実際はあまり誉められた環境ではありません。街中いたることころで道路工事が始まり、特に、宿舎の前の十全街は車道を全部掘って、ケーブルの配管などを入れ直しています。車は通行止めなのですが、少しでも余裕があると歩道へ入り込んでくる始末で、自転車や電動バイクは当然のように歩道を走ります。歩行者優先の意識はありませんから、ぼんやりしていると撥ねられそうです。そして、最悪なのが、こうした工事現場や、そのあとを車や自転車が走りぬけるために舞い上がる埃です。気候が乾燥しているためか、土が細かいせいか、もうもうと埃が漂います。工事は朝早くから夜遅くまで続けられ、その中を大量の自転車、電動バイク、車が走り抜けます。工事は市内のいたるところでやられていますので、埃っぽい蘇州となってしまいました。うわさによると、市長が以前道路局長であったため工事に熱心だとか、今年の6月に蘇州で開かれる世界遺産会議で古典庭園だけでなく蘇州市全体を登録してもらうため、それまでに街の景観を整備しているのだとか、いろいろささやかれています。ともあれ、宿舎の前の通りさえ早く終ってくれれば、少しはましになるのですが。

 さて、今回は、学期の最終授業をするにあたって、学生との間でさまざまなやりとりがありましたので、それをご報告します。蘇州大学の本科で日本事情という授業を担当していますが、教科書が400ページ近くあり、とても半年では終れません。日本の地理と政治・経済の概要をかなりなスピードでこなしましたが、半分近くある日本の歴史をやり残しました。最後の3回で、全体の復習と、日本の歴史のダイジェストをインターネットからダウンロードした写真や映像を見せながら行うことにしました。普段使っている教室は黒板だけで、パソコンのプロジェクターがありませんから、3回の授業は教室を変えることにしました。自分で大学の教務と掛け合ってもよかったのですが、思い切ってクラスの級長さんに頼みました。(クラスの選挙で級長を選びます。級長は、クラスと教師、教務との橋渡しや、起立・礼の号令をかけたりします。)本科の2年生のクラスですので、まだ、日本語の会話はたどたどしいのですが、級長さんはとても気の良い明るい女の子です。恐縮して頼んだのですが、それは私の任務ですときっぱりと引き受けてくれました。最初当てにしていた理工楼がその時間に全部ふさがっていて、遠くにある新しく出来た東教楼の教室を駆けずり回って見つけてきてくれました。私の持っているノートパソコンが標準とはいってもプロジェクターにきちんと接続できるか不安でしたので、事前にその教室で確認をしたいといったら、いやな顔をせずに付き合ってくれました。授業の後、二人で西の外れの教室から、東教楼まで20分以上かけて歩きました。東教楼では、教室管理の職員を手配してくれたおかげでスムーズに接続確認ができました。また、その帰りに、以前自転車が欲しいと言っていたのを覚えていて、学生がよく使う安い自転車屋に案内してくれました。自転車屋といっても街中のあちこちの露天で自転車修理の看板をだしているおじさんの一人ですが、中古自転車が入荷すると23台側に置いて売っています。新品の自転車でも2300元だすと買えるですが、新品はすぐ盗まれるというので中古を探していました。彼女が一生懸命値切ってくれて、かつ、彼女も試乗した上で、これが大丈夫というので、鍵付きで95元で買いました。おかげで東教楼の授業の時には、自転車で通え、パソコンも問題なく、楽しい授業ができました。

 級長に限らず、学生は総じて教師に対して親切で丁寧です。例の日本事情のクラスで、全体の復習を行う時、宿題として、何が分からないのか、復習して欲しいところはどこか、記名、無記名で感想を書かせました。以下はその中でまじめな学生が書いたものですが、一つの典型としてそのままご紹介します。「先生はまじめで、親切な人ですので、私たちにとって、先生のような人を会うのは幸福なことです。どうもありがとうございます。日本事情は単語が多いし、内容が複雑し、とても難しいです。しかし、日本事情は文科ですので、問題が少ないです。日本事情をよく知るのように、十分な時間をかかって勉強するのは一番大切なものです。それで、私は問題を出すことができません。すみません。」多少面映いのですが、言葉遣いの誤りもそのままにしてあります。彼らは目上の人に対して表立って批判しない、また、いささか教条的なところもありますが、それでも素直に書いていると思います。また、別な学生と話していて、こんな表現もありました。「難しい授業や退屈な授業でも集中できないのは、私が熱心でなく、悪い学生だからです。」教師経験が無いので、日本の現代の学生と比較できないのですが、こうした素直さや真摯であることが彼らの強みと思います。もちろん、授業中にあくびや居眠りをしたり、携帯を鳴らしたり、ボーイフレンドとの付き合いに夢中な学生など同世代の若者に共通の欠点もたくさんあるのですが。

 担当科目の期末試験も無事に終りました。新米教師として、皆が落第点をとったらどうしようとか、皆が90点以上だったらどうしようだとか、しょうもないことを心配しましたが、幸い点数も適当にバラついてくれました。もとより最終評価は出席と中間試験の成績が半分以上と言ってありますので、ほとんど出席しなかった特殊な学生を除いては、及第点をつけることができました。試験のやり方は二クラスを一緒にやった文正学院の方が厳しいものでした。試験問題を持って、教務の職員が二人で入ってきて、テキパキと学生に机ごとに一人か、長い机には両端に座るように指示し、試験が始まると、机上に置かせた学生証で本人確認を一人一人行うという徹底さです。この厳しさは、先輩の日本人の先生に言わせると、カンニングが多いからだそうです。素直さや真摯さとは結びつき難いのですが、あの手この手でカンニングをする学生が多いようです。幸い、私の試験の時には、そんな現場を眼にすることはありませんでした。

 試験の採点を行い、期中の試験や評価を勘案し、期末の総合成績をつければ今学期の仕事は終わりです。日数を置くと記述問題の採点基準がぐらつくのがいやで、試験の後、一気に採点、評価を付けてしまいました。それで、先に書いたように大晦日の午前中には全て仕上げることができました。学生達は、まだまだ他の科目の試験が学期の終る13日頃まで続きますが、我々日本人教師は自分の担当が終れば冬休みに入れます。

こちらへ来る前には、もっと休暇がとれて、中国の各地へ旅行ができるものと甘く考えていましたが、ほとんど毎日授業があり、都合で休むと振替授業をしなければならない厳格さでしたので、国慶節に杭州へ旅行した以外、遠出ができませんでした。私の中国体験はまだ上海、蘇州と杭州しかありませんので、冬休みには中国の各地をいろいろ見てみたいものです。幸い、IBMの友人が、同じように退職して南部の南寧におりますので、そちらへ寄ってから日本へ戻ることにいたしました。日本では、近況にも綴りましたが、日本や日本語を分かりやすく伝える資料や教材を仕入れようと考えています。皆様には、日本でお目にかかれるかもしれませんが、その折には、蘇州への情報やアドバイスなどご指導をよろしくお願いいたします。    

追: 新年の人民日報の日本語版HPから二件を紹介します。

1)元旦の小泉首相の靖国神社参拝への抗議メッセージ、論評の抜粋です。

「・・・一般人が親族や友人を追悼することは理解できる。その上、多くの遺族らは『靖国神社参拝は親族や友人に哀悼を捧げるためだ』と明確に述べ、A級戦犯の靖国神社への合祀に強く反対している。中国人民は道理を重んじ、日本の人民と少数の軍国主義者、一般民衆と右翼分子をあくまで区別し、一般国民による靖国参拝は歴史問題とは別だとするわれわれの姿勢は一貫している。日本の首相による靖国神社参拝は一般の死者への哀悼とはまったく異なる上、単なる日本の内政問題でもない。侵略の歴史、第二次世界大戦の戦犯を日本政府首脳がどのように認識しているかに関わる原則的問題だ。・・・」

2)胡錦濤主席の新年祝賀メッセージの中に、「小康社会」という言葉があります。「三つの代表」と共に使われ始めたキーワードで、中国の社会目標です。以下抜粋「・・・改革を深め、開放を拡大し、経済の持続かつ調和のとれた健全な高度成長を維持し、各社会事業を全面的に推進し、引き続き『小康(いくらかゆとりのある)社会』の建設を全面的に進め、・・・」