蘇州近況その3 (2003年11月〜12月)


 そろそろ紅葉も終わりに近づき、十全街の道に並ぶプラタナスも葉を落とし始め、鈴掛の由来となった実が目立つようになりました。天気は比較的からりと晴れる日が多いのですが、それでも1週間ごとに雨が降り、その一雨ごとに寒くなって来るようです。街角のあちこちになんと石焼芋屋がでるようになり、温かくてうまそうな匂いをさせています。

 戸惑いながら、また、楽しみながら、授業をこなしてきましたが、先日、文正学院の方から期末試験問題の提出を求められました。1時間半から2時間ぐらいでできる問題をA, B二つ作り、解答と配点を付けて提出せよとのことです。AB二つ作るのは、再試験用と、また、問題の漏洩を防ぐ不正防止策のためだそうです。そのため、ABどちらを実施するかは、教師ではなく、教務が決定します。文正では、会話(実際は、聴解)を担当していますので、文法的な筆記試験では面白くなく、迷った末に、3分の2は、テープを聞かせて解答させる聴解方式に決めました。それでもA45ページになる問題を二通り、あいにく風邪を引いてさえない頭でなんとか作り上げ、提出した時にはさすがにホットいたしました。提出と同時に試験日が割り振られ、私の試験は1226日に決まりました。この週から、来年にかけての2, 3週間が試験週間となります。こちらでは元旦のみが休日で、あとは試験が続き、終った頃に、春節、冬休みに入ります。それから逆算すると、今学期の授業もいよいよあと4, 5回となります。脱線したり、いろいろな事をやったせいで、だいぶ教科書が残っていますが、そろそろ締めくくりを考える時期のようです。

 前回の近況では、こちらの学生のマンガ熱についてご報告いたしましたが、授業の時に学生にせっつかれたのが契機で、先日、時間外にアニメの鑑賞会を行いました。その時、真っ先に学生から要望が上がったのが、宮崎アニメでした。幸い、こちらに長い日本人の先生が、宮崎アニメのDVDをほとんど全部お持ちでしたので、それをお借りして観ることにいたしました。授業が終った午後に、15,6人がてんでんにお菓子や飲み物を持って教室に集まり、すったもんだの末に、「トトロ」を選びました。(文正学院の教室は、DVDやプロジェクターが装備されています。)あえて、中国語吹替えではなく、日本語音声と日本語字幕で観ましたが、彼らはそれなりに字幕を読んで楽しめたようです。トトロは動物?のキャラクターと音楽が人気で、観終わった後でテーマ曲を口ずさんでいる学生も居りました。学生の持ってきたお菓子をつまみながら、一緒になって映画を観るのもいいものですね。次回は、日本の人気テレビ番組か現代の日本状況でも映したDVDでもあれば、それを観ながら、学生としゃべり合うのも面白そうです。どなたか、うってつけのDVDをご存知でしたらお教えください。

 話は変わりますが、これも先日、日本語学科主任の先生から呼ばれて、一緒に日本企業の方にお会いしました。以前にも書きましたが、こちらの新区、園区の工業開発区では、日系企業の進出が盛んです。日本語科の学生も引っ張りだこで、多少日本語のレベルが覚束なくても何とかなるようです。先方は、こちらの日系企業をターゲットとした、ソフトのコンテンツ企業で、今まではコンピュータ関連学科の学生を採用し、日本語教育をしてきたが、それでは成果が出ないので、今度は、日本語学科の学生を採用して、業務に必要なコンピュータ関連の技術は会社で習得させるとのことです。そのため、是非、来年卒業の優秀な学生を紹介して欲しいとの依頼でした。採用の条件として、男女は問わないが、じっくり型の長く勤める人をとのことでした。この会社では、以前も蘇州大学の卒業生を二、三人採用して、日本にまで派遣して研修したが、一年足らずで他の日系企業へ引き抜かれたということです。こちらの学生というか、卒業生は結構転職が盛んです。この担当の方も言うように日系企業自身にも問題はあるようですが、彼らの意識はどちらかというと欧米系で、一所に長くいるより、少しでも自分の能力を高く評価するところがあれば、チャレンジを繰り返すようです。ですから、こちらの日系企業の団体である日商クラブでは、少なくとも管理職クラスの引き抜きはしないと申し合わせているようですが、後から参入してくる日系企業も多く、あまり徹底できていないようです。主任の先生は、学生のチャレンジ志向を是認する前提に立ちながら、少なくとも企業の意向を契約に取り入れて、お互いにその契約を遵守すべきとのご意見でした。聞いていて、IBMのことを思い出しました。程度は別として、IBMでは、職務の定義や、昇進のプロセスが明文化され、比較的オープンでした。Diversity Programもあり、人種、性別、国籍での差別がやかましかったと思います。日本企業も終身雇用を放棄してから久しいのですから、もっとオープンにすれば、あるいは、幹部を目指す学生も出てくるかもしれません。

 こちらでの生活も三ヶ月を越しましたが、最近お気に入りの場所ができました。中国の街を歩いていると、床屋と料理屋がやたらと目に付くのですが、その中に茶とかいた垂れ幕や茶館、茶房などの看板が目に付くようになりました。評判の店の一つに入ってみると、日本の喫茶店を大きくして、ゆったりとさせたような感じで、個室も揃えてあります。メニューはお茶のリストで、緑茶、烏龍茶などの銘柄が並びます。一杯40元以上と割高ですが、何時間いても何も言われません。烏龍茶を頼むと、店の小姐が二つの小振りな急須とこれもおもちゃのように二つの小さな湯飲みの茶器セットを持ってきます。まず、おしげもなく急須に湯をふりかけて温め、それから茶葉を入れて湯を注ぎ、葉が開く頃になると別の急須に入替えて、そこから湯飲みに注いでくれます。湯飲みは香りを聞くためのものと、飲むものと二種類で、細長い湯飲みで香りを楽しんだあと、他方の湯飲みでちびちび飲み始めます。さらに、お茶と同時にフルーツやお菓子、点心などを盛ったたくさんの小鉢を持ってきてくれますので、それらをつまみながら、お茶を飲みます。今、この近況もその茶館にノートパソコンを持ち込んで、お茶を飲みながら書いています。時々、小姐(シャオジエ)がお茶をつぎ足しにまわって来てくれます。食べ物が足りなければ、コーナーへ行くと多くの点心が取り放題ですので、昼飯の足しにもなって割安な感じがします。店の中は地元の中国人で賑わっていて、彼らは何時間でもお茶を飲みながらしゃべっています。めんどうな手順を繰り返しながらお茶を飲んでいると、(もっとも店の小姐がやってくれますが、)何となく優雅な時間を過ごしているような気がします。中国人でも、中国茶は貴族趣味的でまだるっこしい言う人もいますが、また、こうした茶館に対して、日本的なコーヒーの喫茶店も増えているのですが、日がな一日、お茶をちびちりびやりながら、ゆったりするのも中国的と、時々、授業の早く終る日には入り浸って、近況を書いたり、本を読んだりしています。

 いよいよ12月の声を聞くようになりました。この近況をご覧いただく皆様もなんとなくあわただしくなる頃と思います。こちらも、他のクラスの期末試験の作成や、試験の実施であたふたしそうです。蘇州は東京より一、二度暖かいといいますが、それでも、朝晩はだいぶ冷え込むようになりました。先週は軽い風邪を引いて難儀をしましたが、どうぞ皆様もお身体をご自愛ください。

追: そろそろ年賀状の心配をする時期です。今年は喪中のため、年始のご挨拶はご遠慮させていただこうと思います。住所録を日本へ置いてきてしましましたので、また、こちらから郵便で喪中のご案内をするのも、郵便事情を考えると気が引けます。申し訳ありませんが、今年は失礼させていただきます。