南京情況その2 (2007年11月)


 南京名物の、プラタナスの街路樹の葉がすっかり黄色みを帯びて、路上にもその大きな葉を落し始めました。秋晴れの穏やかな日々が続きますが、それでも朝夕はだいぶ冷え込むようになりました。

 11月の声を聞くようになってから、4年生の就職シーズンが始まりました。担当の授業では毎回何人かが欠席をします。休日には、市内のエグジビション・センターや体育館、あるいは、いろいろな大学の構内で、企業の説明会や採用活動が行われています。先日も、蘇州と無錫のソニーが南京の南側にある航空航天大学で説明会を行い、私のクラスからも4名が参加しました。説明の後で、履歴書や応募書類を提出させ、書類審査に通った者は翌日には面接という忙しさでした。3名が面接を受けたようですが、結果は23週間後とのことでした。

 こちらの就職活動は、卒業が翌年の7月ですから、日本よりは少し遅めに始まります。採用選考では筆記試験もありますが、あまり重視されず、もっぱら面接に力点が置かれるようです。日本語科の学生に対しては、企業の日本人スタッフ、あるいは、中国人スタッフによる日本語の面接があるようです。学生の要望もあって、10月ぐらいから、面接演習や、面接のポイントなどを学生に指導してきました。自己紹介でのアピールや「なぜこの会社に入りたいのか」、「会社でどんな仕事をしたいのか」といったよく出る質問への対応などを教えました。しかし、日本語専攻の彼等に、会社でどんな仕事をしたいのかうまく答えさせるのはやっかいです。数年前の日本企業の進出ラッシュの頃は、ニーズはなによりも通訳にありました。しかし、多くの企業が定着してきた近頃では、単なる通訳ではなく、本業に対する戦力が求められます。それでも、女子が多い学生達にしてみると、通訳への憧れが強いようです。彼等には、「通訳、営業、貿易など、なんでもかまいませんから日本語に関連した仕事をしたい」と言うように勧めています。

 また、時々、学生達から就職活動での服装についてたずねられます。まだまだTPOにうるさくない中国なのにと、意外な気がしましたが、日本企業は礼儀と服装に厳しいという固定観念があるようです。私は、日本企業というより、中国の常識で対応しなさいと答えていますが、学生からは、日本企業と関係の無い他学部の学生が就職のためにスーツを買ったという話を聞かされました。あと5年もすると、こちらでもリクルートファッションが華やかになるかもしれません。

 さて、先週、南京日本人商工クラブから、新規会員名簿が届きました。これによると、現在、会員数223名、会員企業77社だそうです。南京在住の日本人や日本企業は、日本料理店のような商店を入れれば、おそらく、この倍を超えるでしょう。それでも、万や千の単位の上海や蘇州と比べればまだまだ多くありません。今年度のクラブの方針は、南京市政府に外国の商工団体として認知してもらうことだそうです。北京や上海は別にして、不用意な団体活動を嫌う中国政府からすると、こうした地方都市での商工団体はあまり認めたがらず、南京の商工クラブは単なる有志の同好会の域をでないようです。そのため、商工クラブでは、参加法人数を増やし、商工関連の支援活動に絞り込み、これまでのような在留邦人の親睦会的な役割から縁遠くなっています。

 これが直接の理由か分かりませんが、南京に長く生活されている日本語の先生達が中心になって、先月、商工クラブとは別の、南京日本人会が旗揚げされました。第1回の交流会に参加しましたが、教師、留学生、主婦、会社員など60名ほどが集まりました。ここで世話人が選ばれ、今後会としての体裁を整えていくことになりました。意外だったのは、国際結婚をされた主婦の方が多かったことです。南京へ来て間もない、あるいは、乳幼児を抱えている主婦は家に閉じこもりがちで、こうした交流の場が必要でしょう。

 因みに、日本人会と商工クラブの両組織を持つ所は、北京や上海を除くと、まだないようで、大半が両者を兼ねているようです。また、南京では、唯一韓国が認知された商工団体を持ち、会員数も1万人に及ぶと聞きました。海外でのこうした組織は、アジア人特有のものなのでしょうか。アメリカやヨーロッパの団体をあまり聞きませんが、単に、在住者が少ないだけなのでしょうか。

 前回、中国の仕事について、分掌と責任がはっきりしていると書きましたが、今回もさらに続けたいと思います。卒業生の女性が、中国の食器会社に通訳として勤めています。中堅企業のため、総経理(社長)と部門の通訳を兼ねており、通常は部門の事務室で働いています。事務室には若い女性の事務員も一人いて、朝は交代で事務室の机を拭いたり、簡単な清掃をしたりするそうです。ある日、副総経理が彼女達に、事務室の隣にある総経理の部屋が汚れているので、きれいにするように頼んだところ、彼女達は聞こえないふりをして自分の仕事を続けたそうです。彼女によれば、一度でもよい顔して副総経理の頼みを引き受けると、次から自分達の仕事になってしまうので、会社が職務の見直しをしてくれない限りは、やらないそうです。それを知っているので、副総経理も強くは言わずに、そのまま事なきを得たようです。これを聞いて、ちょっと驚きました。隣の社長室がちらかっていれば、日本では、見かねて誰でも片付けるでしょう。

 また、別の服装会社に勤める卒業生からも同じような話を聞きました。彼女の所属部門では、彼女ともう一人の女性が通訳として働いています。仕事は、通訳の他に、日本からの指示書の翻訳やメールのやりとりなどだそうですが、もう一人の女性は彼女よりまだ日本語がうまくできないようです。それでも、彼女が言うには、この彼女から日本語について質問されても、決して教えないそうです。同じ職場の同僚として、いっしょに食事などに行くそうですが、お互い気まずくならないのか、不思議です。

 こちらでは、大卒でも、採用されて職務が決まれば、ずっとその職務を続けることになります。それが嫌ならば、自分でキャリアを積んで、上位の職種に手を上げない限り、昇進はありません。日本のように、社員の育成を考えて、ローテーションをしてくれる企業はほとんどないようです。ですから、卒業生達は、与えられた職務が自分のキャリア・アップにつながらないと思うと、さっさと辞めていきます。彼等が言うには「浮かばなければ沈んでしまう社会」だそうです。