南京近況その8 (2006年6月)


 今週から南京は真夏日となりました。これまで、日中は30度を超しますが、朝夕は涼しく、快適な日々が続きました。それが、外に出るとムッとするようになり、また、夜になっても温度が下がりません。中国でも悪名の高い南京の夏が到来したようです。日本からは梅雨の便りが入りますが、今年の江南は梅雨に入らず、いきなり真夏になったようです。

 今、南京は、中国はワールドカップで大騒ぎです。今回、中国は出場していないのですが、それでもテレビでは、深夜の実況、昼の再放送、連日の特番とチャンネルを回すとサッカーにぶつかります。おかげで、日本の予選の2試合は全て実況でみることができました。学生たちも、特に、男子学生は夢中です。ただ、夜の11時に寮が消灯となるので、ぼやくことしきりです。どこからか配線を持って来たり、24時間営業の網バー(インターネットカフェ)に潜り込んで、観戦しています。今日の人民網のニュースでは、四川大学で寮の消灯に抗議して、何百人もの学生が暴れたそうです。

 6月はなにかとせわしい時期でした。期末試験の準備の他に、教師の会やスピーチコンテストで上海へ2回も往復しました。また、夏風邪をこじらせ、さらに、テニスの後で軽いぎっくり腰になり、寝たり起きたりするたびに喘いでおりました。今週が最後の授業でしたが、幸い、1回も授業に穴を開けず、なんとか無事に終わりました。

 このスピーチコンテストは、中国教育国際交流協会や日経新聞社の主催で、中国全土で行われ、我々は華東地区予選に参加しました。テーマは「中日友好」です。開催の案内が突然来たため、学内予選が出来ず、作文の上手な子を23推薦して、主任の先生に決めてもらいました。その結果、優等生が選ばれたのですが、かえってたいへんでした。出来上がったスピーチの原稿をみると、その内容は、まるで中日友好協会の会長さんの挨拶のようでした。中日友好がいかに大事で、自分はそのためにどんなに尽くしているのか、とうとうと述べています。さすがに、日本語はしっかりしていましたが、最近の国民性なのか、これまでの教育の成果なのか、建前や正論の羅列にはあきれました。もっと、一学生の視点から、中日友好をどう考え、学生として出来ることを訴えなさいと指導して、何回もダメを出しました。何とか締め切りまでに原稿を送ることができましたが、後で聞くと、このスピーチの原稿による事前審査があり、その結果、華東地区30大学の中に選ばれたとのことです。そんな経緯から、上海でのコンテストに、学生に付き添って主任の先生と3人で行くことになりました。コンテストは、午前がテーマ・スピーチ、午後が即興課題のスピーチと1人が2回スピーチを行い、その後で表彰式、パーティーと1日で終わりますが、南京からこれに参加するには、何と3日がかりでした。30校の内訳は、上海の大学が12校、南京の大学が5校、その他、浙江省から数校、さらに、蘇州、鎮江、揚州など様々ですが、女子学生28名、男子学生2名と女性上位です。今回のテーマは特別意識したものではないとのことですが、30名もの各大学の代表が、中日友好に対するいろいろな体験や、思いを語るのを聞いていると、心強いものがありました。南京工業大学は残念ながら、参加賞に終わりましたが、入賞者の顔ぶれを見ると、スピーチの内容より、正確な日本語に力点が置かれていたようでした。優勝者は上海の華東師範大学の女子学生でしたが、日本人と変わらぬアクセントできれいな日本語を話しました。7月に、各地区の代表者が日本で決勝のコンテストを行うそうです。

 今学期、初めて商務日語という科目を担当しました。内容は貿易実務の基礎といったところです。L/Cとかインボイスなど専門用語が飛び交って、学生たちは苦労したようです。講義だけではおもしろくないので、最後の授業は日系企業の見学を行いました。昨年より、南京日本商工クラブに入会していたため、商工クラブを通して、見学依頼を行ったところ、南京日立産機有限公司さんに快く応じていただきました。場所は、南京郊外の南にある江寧区の経済技術開発区にあります。3年生は2クラスのため、大学側にバスを2台チャーターしてもらい、北の郊外の浦口区のキャンパスから1時間かけて出かけました。広大な開発区のほぼ中ほどに、できたばかりの瀟洒な工場がありました。中国国内向けに、インバーターや空圧機器を生産しており、日本人の経営者やスタッフが56名、中国人100名前後の中堅会社です。一通り工場内を案内してもらった後で、日本人の部長さんに企業の求める人材というテーマで講義をしてもらいました。内容は、日系企業が求めるのは、単なる日本語しか出来ない通訳は要らない、日本語の他に+αを持った人材が欲しいといったものでした。+αは、英語や財務などの専門から、リーダーシップやコーディネート力といったスキルなど様々なようです。漠然と日系企業で通訳をやりたいとしか考えていない学生たちには、よい刺激となったことと思います。これに発奮したのか、講義の後の質問の時間には、学生たちから日本語で、「日系企業は残業が多いと聞きますが、いかがですか。」「中国人の社員の管理はたいへんではありませんか。どのようにされているのですか。」「日本の企業は集団への忠誠心や意識が強いと聞きますが、どのように育成されるのですか。」「学生の企業実習を受けいれられていますか。」など、いつもより積極的に質問をしておりました。蘇州や上海とは異なり、日系企業に触れるチャンスがあまりない学生たちにとって、よい経験だったのではと思います。

 近況の中で、時々、日本人と異なる中国の人の習俗や考え方を報告していますが、先日、学生の作文の中でおもしろい記述がありました。なかなか上手に書けていて、種本があるのかとも思いましたが、そのまま載せてみます。「日本人と中国人はいろいろ習慣が違います。日本人は普通、できるだけ物は貸したり借りたりしない方がいいという考え方を持っています。本、テープ、袋などのちょっとしたものはよく貸し借りが行われますが、お金やカメラなどの貴重品はめったに貸し借りをしません。それに対して、中国人は在るものは買わなくてもいいと思います。ですから、いつも他人に借ります。そして、日本人は小銭がなくて困ったような時には借りることもありますが、小額でもできるだけ早く返します。しかし、中国人は小さいものを借りたあとで、時々返しません。日本人の貸し借りのエチケットはなかなか面倒です。」日本でも落語に出てくる長屋の人たちは味噌や醤油を融通しあっていたようですが、いかがでしょうか。また、よく言われることですが、こうした好意に対して、日本人はいつまでもお礼を繰り返すのに、中国人は1回言えばそれで終わりだそうです。

 さて、73日が最終試験で、採点が済めば、今学期の仕事は終わります。1年間では、折角顔を覚えた学生への指導が不十部に思えて、また、1年間契約を更新いたしました。来期も南京で頑張ります。住まいの上下に居るアメリカ人とオーストラリア人は今期で終了し、それぞれ国へ返るようです。6月末に帰国するそうで、そくさくと荷造りを始めています。こちらは、例によって5日か、6日ごろ南京を発ち、今回は、古代中国の中原の地、洛陽、開封、できれば平遥などを回って帰ろうかと思っております。こちらに来ている日本人の留学生たちは、夏休みに、新橿やチベットへ出かけ、安宿で1ヶ月も2ヶ月もブラブラするようですが、そろそろ日本酒と刺身が恋しくなってきているこちらとしては、その元気はありません。7月半ば頃、帰国のつもりです。これまでこの近況にお付合いくださり、ありがとうございました。