南京近況その6 (2006年4月)


 南京では今が春の盛りです。住まいの近くは、アパート群や商業ビルが建ち並ぶ、少々雑然とした都心になりますが、それでも、街路樹やビルの傍らにある樹木に次々と花が咲き始めました。始めは、(前回ではコブシと書きましたが、)白木蓮が葉の無い枝いっぱいに白い花を咲かせ、次に、薄いピンクの海棠や小ぶりな山桜が小さな葉とともに咲きました。南京の街路樹は中国でよく見られるプラタナスですが、大人が一抱えもするような太い幹が、地上から34mあたりで大きな枝を縦横に張り巡らして、広い道を覆うように続きます。冬には丸坊主でしたが、葉の新芽を包む殻だと思うのですが、薄緑の小さな粒をはらはら落します。風の無い時は、歩道に薄っすらと絨毯を敷きつめたように積もりますが、瞬く間に、例のオレンジのおばさんやおじさんたちが大きな箒で掃いていきます。今ではもう、楓に似た赤ん坊の手ほどの葉が枝を覆うようになりました。この頃は、桐の花がきれいです。冬の間は桐の木に気付きませんでしたが、薄紫の小さな花が葡萄の房のようにかたまって背の高い大ぶりな木の一面に咲いているのは、なかなかみごとなものです。会社に居るころには、春になっても花や木々の様子などあまり気が付きませんでしたが、こちらに来てからよく目に付くようになりました。中国の樹木が大ぶりなせいで目立つのか、会社の頃には殺伐としていたのか、理由は分かりません。

 さて、街中でもいろいろな花が咲き始めましたので、郊外へ菜の花を見に行きたくなりました。幸い、他の大学の先生が卒業生の案内で高淳へ行くというので、便乗させてもらいました。高淳は南京市街から南へ80kmほど下ったところにあり、南京行政区の高淳県になります。春秋の呉の宰相、伍子胥が造った運河が今でも使われているなど歴史があり、石臼湖、固城湖といった大きな湖に囲まれ、蟹の産地としても有名なようです。23年前まで高速も無く、南京から3時間以上はかかったようですが、今では、南京空港への高速が延長され、1時間半ほどで着きました。平らな草原というよりは、低くうねる丘陵地帯で、農道の両側に延々と黄色い菜の花が咲いています。この辺りは水田地帯だそうで、食用油と稲の肥料にするため、菜種を植えるのでしょう。車で広めの農道を走っていると、所々に蜜蜂の巣箱と組み立て式の番小屋が見られます。昔は日本でも見られた、花を追って移動する養蜂業者たちです。卒業生の実家が養蜂もしているので、その現場を見せてもらいました。巣箱の中は2層になっており、上が蜂蜜用で、下はローヤルゼリー用です。六角形のセルの中に幼虫を入れておくと、そこに蜜蜂が分泌物を溜め込み、ローヤルゼリーになるようです。卒業生のご両親が、巣箱から取り出した枠板のセル中から、小さじいっぱいほどのゼリーをせっせと集めていました。1?当たり100元程で卸すようですが、これが街中では、100g100元以上で売られることになります。もちろん蜜も集めるのでしょうが、現代の養蜂はローヤルゼリーなのでしょう。そういえば、日本よりはるかに廉価なため、中国土産の一つとして人気があります。

 案内してくれた卒業生は女性ですが、高淳県東?町の行政府、村役場?に勤めており、職務は商招、企業誘致とのことです。高淳県は南京市街区から南へ、江寧区、?水県と続いた南端にありますが、既に、江寧区は、南京市内の大学や多くの企業が移転し、経済開発区として軌道に乗っています。高速道路がつながったことから、次第に経済開発区が?水、高淳へと広がっています。高淳県のホーム・ページにはなんと日本語版がありました。この日は日曜日でしたので役場はお休みでしたが、役場の食堂で夕食をご馳走になりました。食後、彼女の家が近くにあるというので、無理を言って家を見せてもらうことになりました。役場の周りの密集した家並みを抜けて、やや村はずれに彼女の家がありました。例のご両親と彼女夫婦に3歳の男の子と5人家族です。漆喰の白壁で出来た2階建ての母屋が2棟くっつくように建てられていました。家の真中が共通の居間のようで、床は無く、庭から続いた土間になっています。吹抜けの天井から笠電球が下がり、テーブルと椅子、奥の壁際にテレビが置かれているぐらいで、とても簡素です。居間でお茶をいただいて、一頻り養蜂の話を伺って、腰を上げました。外へ出ると、辺りはもう真っ暗で、外灯も無く、日本のように明々と電気を点けている家が無いので、一層暗く感じます。空を見上げると満点の星で、前方の夜空に北斗七星と北極星が、また、真上からやや南の方にオリオン座がはっきりと見えました。こちらに来て、こんなにたくさん星を見るのは初めてです。

 話は飛びますが、暖かくなったせいか、夜になると宿舎のまわりが一層にぎやかになってきました。アパートを出て、南の山西路や湖南路といった繁華街へ向かう道筋に毎晩夜店がたちます。また、北の三牌楼路の辺りにも夜店がにぎやかです。道路は4車線ほどもあり狭くはありませんが、両側に夜店がたって、その周りを人がたくさん歩きますので、車の通る余地はわずかです。でも、その中をバスやタクシー、スクーターや自転車がクラクションやベルを鳴らしながら抜けていきます。さすがに、土、日になると歩行者天国になりますが、それでも通行止めのバーの脇をすり抜けて車が通ります。夜店は、衣料品、雑貨、本やDVDなど雑多ですが、飲食の屋台もずいぶんとあります。ラーメンやワンタン、シシカバブやイカ焼き、ゆで卵、梅花塘といった砂糖菓子、また、台湾小豆餅と書いた今川焼きの店もありました。中でも、串にさした野菜や肉を熱湯でさっと湯がいて辛めのタレに付けて食べる麻辣湯(マーラータン)の店が一番人気があるようです。立食いもありますが、屋台の周りに小さな椅子やテーブルが置かれ、それにカップルやグループ、家族で座って夢中で食べています。冬の間は、こうした様子を見ると、寒々としたのですが、熱い麻辣湯を食べる頬に当たる風が涼しげで、とてもおいしそうに見えます。

 学生達に言わせると、南京は冬と夏が長くて、春と秋が短いと言います。3月の末からこれまで、寒暖の山谷はありますが、気候はとても快適です。雨も思ったほど少なく、黄砂もありません。今が南京の一番良い時かもしれません。

最近、学生達と話すと、5月のゴールデン・ウィークはどうするのかとよく聞かれます。こちらにとっては、連休の振替えのため、前後の土日に授業をやらなければならず、また、列車や飛行機のキップを取るのが大変で、さらに、ホテルは特別プライスになります。有名観光地はどこへ行っても、人手が半端ではないので、あまり遠出をするつもりはありませんが、良い機会ですので、近場をあちこち歩いてみようと思います。次回はそんな近況をお伝えできればと思います。