南京近況その5 (2006年3月)


 南京では先週の土曜日から急に暖かくなりました。ここ何日かは日中で20度近くあったのではと思います。新学期が先月の20日から始まりました。今学期は担当する授業がひとつ減って、4科目10時限となりました。科目は3年生のビジネス日本語、2年生の会話、聴解、作文と、2年生の授業が多くなりました。

 新学期の始めの授業では、久しぶりなためか、せっかく覚えた学生達の顔と名前がだいぶリセットされておりました。学生達もなんとなく先学期より日本語がたどたどしいように感じます。冬休みや春節の過ごし方を聞いてみると、旅行に出かけた学生はほとんどおらず、皆、テレビを見たり、地元の友だちと旧交を温めたりで、のんびり過ごしたようです。総じて、学生達はテレビが好きで、大学では寮にテレビが無いためか、家へ帰ると懸命に見だめをします。旧暦の大晦日には、家族でそろってレストランなどでご馳走を食べ、春節では、挨拶回りに来た知人や親戚たちを家庭料理でもてなすようです。日本と同じお年玉の習慣があり、上海では、一人平均3000元ももらったそうです。大学生もまだお年玉をもらう方で、たくさんもらわなかったとこぼしてはいましたが、だいぶ懐は暖かいはずです。冬休みの期間が1ヶ月近くと長いため、しまいには退屈したという学生もいましたが、寮へ戻ってくるのは、ほぼ全員が、ぎりぎりの18日か19日になります。クラスの学生で一番遠いのが黒龍江省のハルピンの先の伊春で、南京まで列車で36時間もかかるそうです。時々私の所へ遊びに来る四川省の男子学生は、省都の成都に出て、南京行きの列車に乗り継ぐまで1日ちかくかかり、成都から南京まで24時間かかったとのことです。学割を使うと半額にはなりますが、汽車賃を節約するため、寝台を使わず、座席に座って来たと言っていました。

さて、授業も無事に始まり、陽気も良くなったせいか、梅を見に行きたくなりました。学生達に南京の梅の名所はどこかとたずねると、ある学生が自信無げに梅園新村と教えてくれました。以前から、場所だけは、南京市街のほぼ中心にある蒋介石の総統府跡のすぐ近くにあると知っていましたので、先週行って見ましたが、みごとに裏切られました。戦後、周恩来を代表とする共産党が蒋介石の国民党と和平会談を行ったとき、共産党側の宿舎やオフィスだった建物が記念館になっており、周りはやや古いアパートが建ち並ぶ住宅街でした。当時このあたりを梅園新村と言ったようで、その地名が残されているだけでした。日本でも同じですが、学生達は買い物や遊びに出かける繁華街は詳しくとも、南京の名所旧跡などはあまり知りません。仕方がないので、インターネットで調べると、すぐ近くに梅園が見つかりました。

南京市街の東南に500m程の小高い山があり、紫金山といいます。ここには、孫文の中山陵や明の太祖の明孝陵などがあり、南京観光の中心ですが、南側のなだらかな山麓は緑が豊富で、森林公園といった趣があります。明孝陵への参道は石象路と呼ばれ、様々な動物の石像が延々と道に沿って置かれていますが、その道の山側にあるこんもりとした丘が梅花山と呼ばれる梅の名所でした。さっそく日曜日に出かけました。ちょうど南京国際梅花祭りの最中で、たいへんな人出でした。14万uの敷地に、およそ20013000株の梅とありますから、なかなかの梅園です。白梅と紅梅を中心に、紅に近い赤い梅や、やや緑がかった白い梅などが入り混じって咲いています。木の下にはたくさんの人がシートを敷いて座り、お菓子や飲み物を出してくつろいでいます。ただ、日本の花見のように、料理や酒を並べての大宴会といった大騒ぎはさすがにありませんでした。日ざしが急に暖かくなったせいか、セーターを脱いでも暑いくらいで、広い園内を半日ゆっくりと歩き回りました。帰りの道は、バスや車で大混雑でしたが、幸い臨時の路線バスがつかまり、30分ほどで市街に戻れました。南京では、紫金山を始め、東の玄武湖、北西に流れる長江など市街のすぐ側に自然があるので楽しめます。

ところで、最近、南京の街を歩いているとペットの犬がずいぶんと目に付きます。たいていは飼い主が散歩をさせているのですが、ほとんどひもでつながずに好きに歩かせて、その後を飼い主が歩いています。飼い主が糞の始末の袋や道具を持っているのを見たことがありません。時々、道端に糞がころがっていますが、犬の数の割には、あまり気になりません。中国の街路では、オレンジのチョッキを着た清掃員のおじさん、おばさんがたくさんいますので、おそらくゴミと一緒に片付けているのでしょう。犬の種類は、やはり小型犬が多く、狆、マルチーズ、ペキニーズなどの雑種を良く見ますが、中にはコリーなどの洋系の大型犬も見られるようになりました。2年前に蘇州へ来た時には、これ程、ペットが目に付かなかったのですが、年々、市民生活に余裕が出てきているのではと思います。そういえば、アパートの周りにも野良猫が何匹もいて、夜などギャーギャーとうるさいことがありますが、これも食べ残しなどがあふれるようになったせいかもしれません。

授業のある日は、720分頃のスクールバスに乗るため、6時前に起きています。そのため、夜は11時には寝るようにしていますが、就寝前の12時間はよくテレビを見ます。だんだん中国の時代物は飽きてきたので、海外映画を見ています。新しいアメリカ映画などもよく流していて、先日はブルース・ウィルスの主演映画を連日放映していました。なつかしいところで、グレゴリー・ペックの特集があり、「ローマの休日」も楽しみました。また、これも最近、宮崎駿の特集があり、「千と千尋」、「ハウル」なども見られました。こちらの放送は、日本のように連続ドラマを週1回ずつ長く続けるというより、平日には毎日続けて流します。日本でも評判だった韓国ドラマの「チャングムの誓い」が、昨年南京でも「大長吟」というタイトルで流され、大評判でしたが、これも連日放映されていました。韓国ドラマはよく流れますが、日本のドラマはまだ見たことがありません。その代わり、夕方6時頃の子供番組では、ドラエモンやウルトラマン・シリーズが流されています。テレビ映画といえば、最近気がついたのですが、共産党の活躍を描いた抗日戦争映画があまり放映されなくなりました。一昨年、昨年と、毎日のようにどこかの局で、残虐で好色な日本軍が登場する戦争映画が流されていましたが、ほとんど見なくなりました。勘ぐると、オリンピックを控えて、あまり反日を扇動するような番組は抑え始めたのでしょうか。中国政府はまだ、中日関係悪化の原因は中国側に無いとけんもほろろですが、政策の転換があったとすれば幸いです。

政治といえば、現在、北京で全国人代表大会が開かれています。インターネットの人民網によると市民へのアンケートで、関心事1位は、貧富の差や都市と農村の格差、2位が中国の外交、3位が台湾問題でした。全人代は毎年1回、ちょうど今頃行われます。因みに、昨年の市民の関心事は、1位がやはり、貧富の格差、2位が政治の腐敗、3位が教育費の高騰でした。

さて、冒頭でも書きましたが、ここ数日暖かな日が続いています。インターネット・ニュースでは、日本でも今週関東で春一番が吹いたという記事と、房総の一面に咲き乱れる菜の花の写真が載っていました。こちらでも西の貴州省で一面に咲く菜の花の報道がありました。昨年、蘇州では次第に菜の花の群生が少なくなったと書きましたが、南京の周辺ではどうでしょうか。いまから楽しみです。