南京近況その3 (2005年11月)


 早いものでもう12月に入ろうというのに、今年の南京は暖かです。温度も日中は日が当たると15, 6度の日々が続きました。学生達に聞いても、この暖かさは例外のようで、おしなべて南京の冬は寒いからいやだと嫌われています。

 今月は、元IBMerの友人が何と二人も南京をたずねてくれました。最初の方は、上海在住で、中国に係わってから十数年になるという中国通の方で、南京も初めてでは無いので、二人で南京長江大橋へ出かけ、たっぷりと長江を眺めて来ました。後の方は、ついこの間までJICAのシニア・ボランティアとして南寧で活躍されていた方で、再度、中国にチャレンジするため、上海での研修会へ出席されたついでに、わざわざ南京まで足を伸ばしてくれました。南京は初めとのことで、大虐殺記念館から、中山陵、明孝陵、夫子廟までタクシーを使って駆けずり回り、また、翌朝は中山埠頭から長江を眺めていただきました。お二人とも上海から列車でこられました。特急を使うと2時間40分ぐらいで着くそうです。

 さて、今月は南京生活について報告いたします。赴任早々一番こまったことは食事でした。蘇州の時は、宿舎がホテル街にあったため、周りに料理屋が何件もあり、値段も手ごろでしたので自炊の必要は全くありませんでした。こちらは大学とアパートの住宅街、さらに下町がごっちゃになったようなところですので、周りは半分屋台のような、通りから調理場もお客のテーブルも丸見えになった店か、ウェートレスに案内されて、スープから一皿、二皿と注文しなければいけないような店しかありませんでした。初めは、物珍しさで、半分屋台のC級グルメ店で食事をしましたが、欠けた丼やくもったコップでは、ゆったりと夕食をという気分になりません。幸い、20分ほど歩くと、南京の渋谷といった湖南路・山西路の繁華街に食堂街があります。しばらくは、そこまで出向いて食事をしていたのですが、授業が始まると、夕方バスにゆられて帰った後で、また出かけるのもしんどくなりました。前任者の日本の方が管理のおばさんに賄いを頼んでいたという情報を聞きましたので、それに飛びつきました。食材の買い物を含め全てお任せで、平日の夕食と翌日の朝食用のお粥を作ってもらうことに決めました。夕方におばさんが来てくれて、部屋の台所で料理を作ってくれます。献立や料理への注文は何もしませんので、本場の?中国家庭料理です。スープと、野菜と肉の二皿とご飯が定番で、たまに餃子や魚料理となります。もちろん料理は全て油で炒めたもので、澄まし汁風野菜スープにも油が入っています。豪華な中華料理という訳にはいきませんが、毎晩出歩くことを考えれば贅宅は言えません。その代わり、休日には例の食堂街へ出かけ、南京、東北、四川料理や火鍋、韓国料理と食べ歩いています。ただ、休日の繁華街は人でごった返しており、空いた席をみつけるのが一苦労になります。もちろん日本料理もありますが、こちらの日本料理はまだ食べる気になりません。

 さて、次に悩んだのは床屋です。中国の街は料理屋に次いで床屋が多いのですが、男性専用は少なく美容院兼用です。入るとまずお兄さんかお姐さんが出てきて頭を洗ってくれて、10元だすと念入りに頭のマッサージをしてくれます。これが終わるといかにも美容師といったお兄さんがケースに入れた自分用の理髪セットを持って出てきます。始めは鋏を使いますが、私の場合はいつも、しばらくするとバリカンで刈上げられてしまいます。値段は店によって違いますが、繁華街の表通りの店で5, 60元、最初に行ったアパートの近くの店では15元でした。蘇州でも同じでしたが、お兄さんの理髪セットはどうもお客が代わっても消毒をしている気配がありません。チャラチャラしたお兄さんは敬遠して、また、衛生状態がどの店でも同じならば、もっと近所のおじさん達が行くような店を探してみる気になりました。アパートの別棟の1階に床屋がありました。アパートのおじさんたちも出入りしているようなので、先日思い切って入ってみました。お姐さんが出てきて、鋏を少し使ってから、バリカンでさっと刈上げて終わりました。頭も洗わず、髭もそらずで、5分たらずでしたが、料金は4元(60円)でした。安いのはいいのですが、あまりに手軽なので、次回はもう少していねいなところを見つけようと思っています。

 こちらのアパートは単独で建っているのは例外です。たいてい数棟から、十数棟建てられて、そのまわりを塀で囲んで、門に守衛か番小屋のおじさんがいるのが普通です。セキュリティのためでしょうが、広い敷地に門が一箇所ですから、出入りがめんどうです。朝になるとその門の前にたくさん屋台が出て、朝食を売っています。豆乳、お粥、麺類から、油条(小麦粉を棒のように揚げたもの)のような揚げ物まで豊富です。アパートの住人も結構そこで手軽に済ませてから、勤めに出る人が多いようです。ただ車も通る往来ですから、なんとなく埃っぽくて、私はあまり使いません。門から南へ10分ほど歩くと、北京華連という大型スーパーがあります。朝早くから、夜も9時過ぎまで開いていて、便利ですので、日常品のほとんどはここで買っています。先日、自転車の安売りをしていました。普通300元以上する自転車が139元で売り出されました。さっそく店員にこれが欲しいというと、店員はあまり売りたがりません。190元以上する別の自転車を勧めます。どうもこれは品質がよくなくて、備品も付いていないと言っているようですが、無理やり安い方を買って帰りました。スーパーで空気を入れてもらって、乗って帰ったのですが、アパートに着くともうタイヤの空気が抜けていました。翌朝、アパートの門の前で店を開いている自転車修理のおじさんにみてもらうと、タイヤの空気の取り入れ口の金具が粗悪品で、そこから漏れていました。金具を換えてもらって、附近を乗り回してみると、今度はペダルの足掛けのゴムが削げ落ちました。これも付け替えてもらって、5元足らずでした。おじさんがこれは新品の自転車ではないのかと言っていましたが、何とも返答のしようがありませんでした。ところで、こちらではまだサービスに対する料金が驚くほど廉価です。自転車に限らず、いろいろな修理のおじさんが街のあちこちの露天で店を開いています。恥ずかしい話ですが、服のボタンが取れたり、縫い目がほつれたりした時も裁縫屋に持っていくと、その場で直してくれて1, 2元で済みます。サービスの料金はこちらが外人だからといって、まだ一度も吹っ掛けられたことがありません。一般に、中国の人は実利的なせいか、物が壊れてもその原因をこまかく突き止めるより、応急手当をして、それで使えればよしとする風があります。原因をはっきりさせないとまた壊れると思うのですが、しばらく使って壊れたら、また、手当てをすればよいと割り切っているような所があります。

 11月には、また、南京日本人教師の会がありました。南京は古都や省都であるとともに文教都市でもあります。国立、省立、私立の大学、各種職業学校や語学学校とたくさんあり、そこで教えている日本人教師は、教師の会の会員だけでも30名以上に及びます。さらに、無錫や鎮江、常州、揚州を含めると倍以上になるかもしれません。各教師が教えている学生、生徒の数を50人としても、学生の数は1500名以上になるでしょう。南京で毎年これだけの学生が日本語を習い、日本文化に触れていると思うと、とても心強くなります。私が南京へ来る際にお世話していただいた先生は南京旅遊学校というところで教えておられますが、ここでは、英語と日本語のホテル科があり、日本語のホテル科のみ、卒業年次に日本で1年間の実習があるそうです。毎年春に日本からホテルや旅館の担当者が訪れ、面接をした上で実習先を割り振るそうです。学生達はこの面接に通らなければ旅遊学校に入学した意味がないので、必死に日本語を勉強するようです。比較的日本と距離が遠そうな南京でもこうですから、上海や大連、天津、広州などを入れると、日本と中国との繋がりは想像以上になると思います。

 日本人教師の会に出席した時、関係の先生から南京日本商工クラブへの入会を勧められました。早々推薦していただいて、個人会員として入会いたしました。送られてきた会員名簿を見てみると、法人会員で60150名、個人会員で40人、他に賛助会員が20名ほどでした。入会後に商工クラブから頻繁にメールが来るようになりました。日本人の好きなゴルフコンペのお知らせ、江蘇省主催の外人演芸コンテストの募集、極寒地への衣類寄付の依頼など様々です。その中で、大学・企業交流委員会に入りました。この委員会のテーマは、南京で日本語を学ぶ中国人学生が卒業後外部に流出し、南京の日系企業に就職しないことへの対応を検討するというものです。南京にも100社以上の日系企業と1000名以上の邦人が居ると思われます。工業大学でも学生と食事をした時に、卒業後にどこに住みたいかたずねてみますが、確かに南京に住みたいという学生はほとんどおりません。省立のため、南京出身者が少ないという点はありますが、同じ条件の蘇州大学と比べても、南京希望者は少なすぎます。多くの日本人が南京と言うとなんとなく襟を正すようなところが、中国の人達にも伝染しているのか、あるいは、夏暑くて冬寒い南京が嫌われるのか、原因は様々でしょうが、南京在住のベテランの方々といろいろ話してみようと期待しております。

 いよいよ12月に入ります。教師としては期末試験の作成に追いまくられる時期です。今回は筆記だけではなく、インタビューもしてみようかなどと考えていますが、初めての学校のため、いろいろばたばたしそうです。これまで暖かかった秋日和も、学生達から、もうすぐ寒波が来ますと脅されています。日本の気候もだいぶ山谷がありそうですが、皆様も健康にお気をつけください。