第10回全国運動会が終わって、南京の街はなんとなく落ち着いたように思えます。この夏に南京に赴任した当時から、街の中のあちこちに運動会のポスターが貼られていました。各省の持ち回りで4年に1回開催されるそうで、今年は江蘇省で行われました。競技会場は江蘇省の各都市が分担し、蘇州ではハンドボールや近代五種が、無錫では野球といった具合で、10月に入ってからすでに一部の競技は行われていましたが、12日の夜に真新しい南京オリンピック競技場で開会式が行われました。競技場へ行きたかったのですが、既に、入場券は千元以上のプレミアが付いており、テレビの実況で我慢することにいたしました。まるでオリンピックの開会式のような熱の入れようで、胡錦濤主席も出席し、ファンタジックな3部構成のパフォーマンスが続き、最後にはロボットの聖火ランナーが空中を歩いて点火するという凝りようです。翌日から、テレビのニュースでは、必ず各省の獲得メダル数が表示され、競技のハイライトが放送されます。結果は、江蘇省が追いすがる広東省を大きく引き離し、みごとに面目を保ちました。 南京工業大学では、花形スポーツが何とソフトボールで、江浦キャンパスには観客席のついた試合用の球場が二つ、練習用の球場が一つあり、運動会のソフトボール会場となりました。大学の方から開会式の入場券を貰い、7時の専用バスに乗って応援に出かけました。まだ中国ではソフトボールや野球はマイナーなせいか、参加チームは全部で11と多くありませんが、グラウンドに並んだ女子選手達の体格のりっぱなことに圧倒されます。開会式が終わると、引き続いて江蘇省と天津の第一試合が行われました。江蘇省のチームは南京工業大学のユニフォームを着ています。ソフトボールの試合をライブで見るのは初めてですが、大柄な投手の速球を外野へ飛ばすのはたいへんなようで、ランナーが出ると手堅くバントで送ります。守備側は投手の一球一球にエールを送り、攻撃側はベンチの選手が全員立って声援します。監督はチャンスやピンチにタイムを取り、小まめに選手を交代させるので、イニングは7回ですが、随分と長い試合になりました。幸い、相手のエラーで先行した江蘇省チームが5対1で勝ちました。クラスの学生達もだいぶ応援していたようですが、満員の球場では見分けがつきませんでした。後で試合の感想を聞くと、ルールが難しくて、閉口したとのことです。 話題は変わりますが、17日の朝、パソコンのメールを開くと、日本大使館からの配信メールで小泉首相の靖国参拝を知らされました。メールには人の集まる場所に不用意に近づくなとありましたが、ちょうど前日に有人宇宙飛行船の神舟6号の打ち上げが成功した直後で、テレビではほとんどのチャンネルがその特別番組で埋まり、それが終わると、運動会の実況やハイライトでしたので、参拝のニュースはあまり流れませんでした。CCTVのニュース番組をチェックしていましたが、私が見たのは、夕方に流れた字幕ニュースのみでした。今回は中国政府が冷静に?対応したせいか、学生達の周囲でもあまり騒がれませんでした。ただ、静かなだけに政治のしこりはさらに奥へ沈殿してしまったような感じがします。 先月の近況では南京の紹介ができませんでしたので、今月は私が出歩いた限りでの南京をご紹介します。南京市は江蘇省の省都で、11の区と2つの県から構成され、人口は約624万人、市街人口は444万人とのことです。中国の中央部からやや北東に流れてきた長江(揚子江)がまっすぐ東へ向きを変える曲がり角にあたり、中国最大の河港として万トン級の船舶の停泊が可能だそうです。南京市はこの長江によって南北に2分されていますが、市街の中心地は長江の南側になります。古くは三国志の孫権が呉の都を置いたのを始めに、東晋、宋、明などの都となり、さらに、太平天国や中華民国の都にもなりました。街の名前も、金陵、建業、建康など様々に変わり、宋の頃に南京となったようですが、金陵という名前は人気があるようで、今でも街の看板や、ホテルの名前などでよく見かけます。私のお気に入りの地ビールも金陵?酒です。 南京の市街地は、北と西に長江があり、東には広々とした玄武湖と450mほどの紫金山がそびえ、その間を城壁で南北に長い長方形のような形に仕切られています。城壁は明の時代に造られ、当時は周囲50km以上あったといわれますが、現在でもまだ三分の一か、四分の一近くが残されており、特に、東側の玄武湖公園に沿って数キロにわたって続いている城壁はなかなかみごとなものです。街の様子は、上海や重慶のように超モダンな高層ビルが林立するというわけではなく、ビジネス街や繁華街の高層ビルも広い市街に吸収されて、あまり威圧感がありません。建物は中国の他の新興都市のように新築のピカピカしたものよりは年数が経たものが多く、それらが街の雰囲気を灰色か、薄茶色のややくすんだものにしています。以前の蘇州に比べると、町並みははるかに広く、片側3車線で、その横に大きなプラタナスの街路樹を挟んで自転車道路が並ぶ広い幹線道路が、市街を縦と横に数本走っています。 南京は中国の七大古都の一つだそうで、紫金山の麓に、孫文を祀った中山陵、明の太祖朱元璋の明孝陵、市街に入ると、太平天国の天王府や中華民国の総統府等が残されています。繁華街は、大きなデパートやホテルが建ち並ぶ新街口、私の宿舎の近くの湖南路・山西路や、浅草的な夫子(孔子)廟等があります。また、西側の城壁の外に有名な南京大虐殺記念館があります。 先日、華夏銀行へ行って、公共交通用のICカードを購入してきました。中国のどの都市でもそうですが、バスが安く、普通のバスは1元、空調バスは2元でどこでも行かれます。バスの乗車口で読取り装置にカードを掲げると、乗車賃と残高が表示され、カードを使えば7角とさらに安くなります。休みの度に、運動がてらバスを使って市内を乗り回しています。バスの頭には数字で路線が書かれ、停留場には路線の停車駅が全て表示されていますので、5元の交通観光地図と照らし合わせればだいたい行き先が分かります。 また、ちょうど夏に赴任した直前に中国の都市としては4, 5番目になる地下鉄が開通したばかりでした。まだ、北の南京駅のあたりから南のオリンピック・センターまでの一車線ですが、真新しい車両は清潔で快適です。試しに、近くの新模範馬路駅から終点のオリンピック・センターまで乗ってみました。切符はなく、販売機で行き先を選んでコインを買います。運賃は2元から5元で例のICカードも使えます。開通直後のため、改札口の附近には駅の職員が何人も立っており、コインの買い方から改札口の通り方まで、つききりで案内していました。 歩き回った中で、気に入った場所を一つ紹介いたします。毎朝スクール・バスで長江大橋を渡る時、橋の手前の西側の小高い丘の上に楼閣が建っているのが見えました。気になったので、9月の終わりごろ、地図を頼りに行ってみました。そこは南京港のすぐ近くの獅子山公園で、中ほどの丘の上に閲江楼という大きな楼閣が建っていました。石垣の下から数えると7層の楼閣で、52mはあるそうです。明の時代に建てられたものを最近復元したもので、何でも江南4大名楼の一つだそうです。まだ新しく、色も鮮やかでした。その最上階からの眺めはすばらしく、北から西にかけて、長江がゆったり流れ、その上を長江大橋が延々と続いています。東から南は南京市街が一望でき、遠くに新街口の高層ビル群が見渡せました。大橋を眺めていると、東の方から緩くて長いアプローチの上を列車が走ってきて、大橋にさしかかり、長江を渡って行きます。ゆったりと流れる長江とその上を何両もつながった列車がゴトゴト走っていくのを見ていると、何とも悠々とした気分になりました。 この2、3日、朝、夕だいぶ冷え込むようになりました。北の北京ではもう紅葉が盛りだそうです。あと1、2週間で南京でも紅葉の盛りとなるでしょう。日本でもそろそろ紅葉の季節と思います。学生に南京の紅葉の名所を聞くと、北にある栖霞山だといいます。そのうち学生達と紅葉狩りにでもいってみようと思います。次回はそんな模様でもお伝えできればと思います。 |