南京近況その12 (2006年12月、2007年1月)


 明けましておめでとうございます。夜半に雨が降ったせいか、静かに新年が明けました。気温は45度と思いますが、零下には至らず、雨上がりのしっとりとした新年となりました。元旦を中国で迎えるのもこれで4回目となります。

 1日、午前中年末に採点した期末試験の整理やまとめをして、午後から蘇州時代の学生がガールフレンドとたずねてくれましたので、3人で新街口へ出かけました。中国では連続休暇を奨励するため、政府がガイドラインを出します。今年は、11日が休日、23日は振替休日で連休となります。代わって、3031日の土日が振り替えの勤務日でした。因みに、今年の春節(正月)は218日(日)から24日(土)までの1週間ですが、休日が20日(月)、振替休日は212223日の三日間、振替日は17日(土)、18日(日)、25日(日)になります。全ての会社がガイドラインどおりとは限りませんが、政府や大学はこの通りとなります。そんなわけで1日は連休の初日とあって、新街口はいつもより人手が多く混雑しています。正月の風情を求めて繁華街を歩いてみましたが、デパートの前にはクリスマスと新年兼用の大きなディスプレイが飾られているだけで、普段の休日より人が多いといった程度でした。

 2日は、学生達を呼んで新年会を行いました。外人教師の特権で、私は年末の最後の授業日に期末試験を行いましたが、通常は1月の第2週から期末試験になります。そのため、大半の学生が連休でも家へ帰らず、寮に残っています。新年会は近くのレストランでとも思いましたが、学生達の方でスーパーに寄って食材持参でたずねてくれましたので、彼等の手料理で盛り上がりました。

 3日は、南京でも古刹と言われる尼寺の鶏鳴寺へ行ってみました。市街の東、玄武湖のすぐ脇の小高い丘にあります。縁起は西暦300年頃の東晋にあるようですが、現在の様式に落ち着いたのは明の時代とのことです。晴れていれば、南京を囲む城壁や玄武湖、南京市街がよく見えるのですが、この日も雨上がりの曇り日でした。さすがに、新年のせいか、いつもより参詣の人が多いようで、次々と大きな線香を抱えた人達が石段を上がってきては三拝を繰り返していました。中国では葬式と仏教は別物ですから、ちょうど我々が神社へ初詣にでかけるのと同じ感覚で、今年一年の家族の安寧や幸運を祈っているのでしょう。いつも冬休みになると日本へ帰ってしまうので、春節の賑わいは知りませんが、こちらの新年は、普段のエネルギッシュな街中の喧騒が春節を前に一休みしているような静けさがあります。

 話は変わりますが、昨年、学生達に日本文化、日本語をテーマに小論文を書かせました。学生達は論文調の「だ・である」体の文章を書くのが苦手で四苦八苦していましたが、奇妙なことに論文の内容が、天気の挨拶、集団主義、桜の3つに絞られました。天気の方は比較的簡単で、中国では「ご飯食べましたか。」という挨拶はあるが、「今日はいい天気ですね。」といった天気を話題にした挨拶は無い、日本人に天気の挨拶が多いのは、四季や気候の変化が激しい日本の風土にあるといったものです。これは、少し定番ですが、うなずけます。集団主義は、日本人は一人一人はやさしくて普通の人、あるいは、たいしたことは無いが、集団になると頑強で大きな力を発揮する、また、個々人は自己を犠牲にして集団に献身するといったものです。桜も同じように、桜の花は一輪では、淡い弱げな花だが、咲く時は一斉に開花し、豪華で絢爛である。ちょうど日本人のようであるといったものです。さらに、桜はパッと咲いてパッと散る、日本人の価値観もパッと咲いてパッと散る刹那にあるのではないかといったものもありました。これらは、彼等が汎読の授業で学ぶ教材のエッセーや小論によく載っている、少し古い日本論の受け売り的なところはありますが、しかし、クラスの大半がそう考えていると思うと、少し考えさせられました。

 同じように、今回の作文の期末試験で、現代中国文化をテーマに小論を書けという問題を出しました。例として、恋愛観、職業観、アニメを上げたところ、また、大半の内容がこの3つに集中しました。興味深いのは、恋愛と職業です。恋愛観は、現代の大学生はよく恋愛をする。その理由は、暇だから、金持ちにあこがれる、皆がするからなどで、根底に愛の無い安易な恋愛はよくないといったややストイックな論調でした。それを逆読みすると、現代の中国の大学生は、大学に入って自由時間が多くなり、また、クラスメートの大半に恋人がいるのに自分がいないのはみっともないからといって恋愛をするようです。さらには、お金があって、着ている物も素敵で、車?を持っていればもっといいのでしょう。こちらの学生の間では、日本でいう婚約者と普通の異性の友人の間ぐらいに男朋友、女朋友という間柄があり、これは、クラス周知の関係で、一旦朋友になると他の異性と仲良くするのはご法度になります。日本のように広く浅く付き合うのは少ないようで、ここで言う恋愛とは男・女朋友を見つけることになります。しかし、中国でも結婚年齢が高くなっているため、これらの朋友達が結婚にまでゴールインするのはまれだそうです。在学中にいろいろな理由で別れることもあるようですが、大きな節目は卒業で、就職先の会社が別の都市になれば、それで別れることが多いようです。

 職業観では、やはり現代の大学生は就職先に仕事が楽で給与が高い会社を選ぶ者が多く、嘆かわしいという論調が多数でした。使命感や達成感で職業を選ぶ学生が少なくなってきているのでしょう。恋愛にしろ、職業にしろ、何となくある時期の日本の若者に似ているような気がします。

 ところで、12月には南京に居ることをしみじみと感じさせられる日があります。1213日は日本軍による南京陥落の日で、この日を南京市は南京大虐殺の追悼の日、あるいは平和祈念の日としています。一昨年は、郊外の江浦キャンパスで授業をしていたために気付きませんでしたが、今回は、娘の結婚式を終えて日本から戻った直後で、宿舎で翌日の授業の準備をしていました。ちょうど朝の10時頃、低くくぐもったようなサイレンの音が響いてきました。うかつにも、始めはどこかで事故でも起こったのかと思いましたが、断続的に何回も鳴るサイレンの音に今日が13日であることを思い知らされました。サイレンは腹に響くような低音で、1分以上も長々と続きます。それが30分間に渡って何回も続きました。思わず部屋の窓から外を眺めて見ましたが、人も車も何事もないように動いています。それでも部屋の中にいるのがいたたまれないような長い30分間でした。現在、南京大虐殺記念館は拡張工事のため休館中ですが、この日は例年通りに記念式典が行われました。その模様は夜のニュースでみることができました。この日の午後には、買物や食事に外を出歩きましたが、別段他の日と同じで、店員やウエイトレスもいつもと変わりませんでした。都市への流動化が激しく、南京生まれの市民は少なくなったと聞きますが、それにしても街の人達はあのサイレンをどう聞いていたのでしょうか。

 さて、年末に行った期末試験の採点も何とか終わりました。あとは、評価の結果をパソコンで入力すれば今学期は完了です。例によって、中国のどこかを見てから日本へ帰ろうと思います。あれこれ迷いましたが、今回は、南京から飛行機で青島へ飛び、青島と孔子の故郷である曲阜を見て帰ることに決めました。青島は江蘇省の北の山東省にあります。南京より寒くないとよいのですが。北京では大晦日に大雪が降ったようです。旅行の様子は、次回の近況ででもご報告いたします。今年は春節が遅く、先に書きましたように218日から24日になります。春節が終わるとすぐ2学期が始まりますが、それまでは、たっぷりと休めそうです。

 今年一年の皆様のご健勝、ご多幸をお祈りいたします。