南京近況その10 (2006年10月)


 今週に入って、南京はだいぶ涼しくなりました。街路樹のプラタナスもところどころ黄色く染まってきました。江南の秋は蟹の季節でもあります。日本で有名になった上海蟹は、江南地方でとれる閘蟹の一種で、特に、蘇州市の陽澄湖でとれる蟹が上海蟹のブランドです。南京では、南の高淳県にある固城湖でとれるものが有名です。街のレストランでも大閘蟹という張り紙を見るようになりました。もっとも、蟹の季節はかなり長く、秋は雌の蟹がおいしく、寒くなると雄がおいしいと言われますから、春になるまで食べられるようです。先日、レストランで食べてみましたが、大きなもので200g前後、150元から70元ほどでした。薄味に茹で上がった蟹を後ろ向きにして、お尻の方から甲羅を剥がすように二つに開き、甲羅についた味噌から食べます。海の蟹のように大きくはないので、身はいくらもありません。この黄色い味噌がほんのり甘くて、一番美味と言われます。スーパーでも大閘蟹として、34匹、50020元ほどで売られていましたが、固城湖産のものよりは小ぶりで、味噌も少なく、あまりおいしくはありませんでした。

 さて、少し前になりますが、国慶節の連休にまた温泉に出かけました。以前、連休にバス・ターミナルへ出かけ、あまりの人の多さに恐れをなしたのに懲りて、今回も旅行はあきらめました。代わりに、連休で南京に帰省した学生と一緒に、郊外の湯山という温泉にでかけました。5月の連休には老山温泉に出かけましたが、湯山はちょうどその反対側、南京の北東、市内から30kmほどの郊外にあります。湯山というから山間の温泉を期待していったのですが、山らしい山はなく、湯山鎮という田舎町に34軒の温泉旅館と蒋介石の温泉別荘が残されていました。学生の勧めで、町から少しはなれた湯山温泉休暇村に行ってみました。エントランスには広い駐車場があり、日本のゴルフ場のクラブハウスを思わせる豪華なフロントに入ると、なんとここはスパ・ランドでした。1128元と随分高い入浴料を払って入ると、室内の大浴場と、露天風呂に別れます。水着を借りて露天風呂に行くと広い園何には、滝の湯、花の湯、世界の湯といったテーマごとに別れた露天風呂や温泉プールなどがたくさんあります。酒の湯というのがあったので、入ってみるとかすかに中国の白酒の香りがしていました。トルコの湯では、ぬるめの温泉の中に小魚が何匹も泳いでいました。湯につかってじっとしていると、その小魚が寄ってきて、足の裏やふくらはぎの辺りを口で突っつきます。はじめはびっくりしましたが、慣れると少々こそばゆいマッサージを受けているような妙な感じになりました。何でも足の角質をとってくれるというので、この温泉の名物だそうです。お弁当の持込や酒類はありませんが、ソフト・ドリンク、フルーツやスナックなどは無料です。入場料は高いのですが、子供を連れて家族で1日遊べば、割安かもしれません。帰りに駐車場を覘くと、南京だけでなく、蘇州や上海ナンバーの大型バスや自家用車がたくさん停まっていました。どうも路線バスで来たのは我々だけのようです。中国でもマイカーでのレジャーが広がってきているのでしょう。

 これは先々週のことですが、アパートから自転車で20分ほど西へまっすぐ行くと、長江にぶつかります。南京の辺りには、川の中に、八卦洲、港洲、江心洲と3つの州があります。対岸はその江心洲でした。川幅も狭く、すぐ向こうに見えます。幸い自転車やバイクも乗せる渡しがあったので、江心洲へ渡ってみました。縦におよそ20kmほど、横は23kmと細長く広がった州でした。渡って驚いたのですが、洲は広大な田園地帯でした。すぐ向こうに南京の高層ビルやマンション群が見えるのですが、ここは、延々と続く葡萄畑や果樹園がありました。州の真中を舗装された農道が杉並木と共に、どこまでもまっすぐに延びています。日差しは並木に遮られ、自動車や人はあまり通りませんので、なかなかすばらしサイクリング・ロードです。時々、農家の入り口に「農家大鍋飯」と書いた看板があります。こちらでは葡萄の季節は夏ですので、その頃には葡萄狩りなどで賑わったのでしょう。2時間ほどで、州の南端にたどり着きました。眼前には、再び広くなった長江と、その上を最近完成した南京長江三橋が長々と渡っているのが見えました。都心のすぐ眼と鼻の先にこんなオアシスがあるのはうらやましいかぎりです。

 話は変わりますが、最近、南京日本商工クラブの分科会で、大学・企業交流会というのに出席しています。月に1度、大学の日本語学科の先生方と南京の日系企業の方が集まって情報交換をしています。今月は通訳のことが話題になりました。日本語学科の学生達の中には、卒業後、日本企業に通訳として就職する希望をもっている学生が大勢います。確かに、通訳は技能職ですので、一般職より手当てが付いて給与も少し高めです。しかし、最近企業の中で、通訳に対する意識が少し変わってきています。企業側は、単に通訳に甘んじるだけでなく、もっと対象業務に精通し、あるいは、自分でその業務が遂行できる人材を求めています。その方が、通訳としての精度も高まるだけでなく、有力な企業戦力になるからでしょう。また、通訳として入社した学生の中にも、通訳をしているだけではいつまでも通訳であり、企業の中で昇進や出世をするためには、自分でも業務をこなせなければいけないと思うようです。その方がキャリアが付いて、転職するにも有利になるのでしょう。そのため、企業では通訳として採用した社員の中で、これはと思う人材には、業務も行わせて、キャリアを育成しているようです。ただ、最近の中国の労基法は次第に精緻になっており、雇用契約の中に職務の範囲や内容をきちんと明記するよう求められているようです。しかし、企業内でのコミュニケーションが次第に専門化され、高度になるにつれ、単に日本語が話せますだけでは、もう通用しなくなってきているのではないかと思います。企業側では、中国へ進出した直後の特殊な時期を除けば、次第に通訳のニーズが少なくなることでしょう。日本語科の学生達も企業への就職を希望するならば、その企業でのキャリアをはっきりと意識しなければならなくなっているようです。このあたりは、ともすると語学専門の学生達にとって一番弱いところのようです。

 今週からもう11月となります。11月には、元の会社の先輩達がわざわざ南京へ遊びに来てくれることになりました。近況にも書いたいろいろな所へお連れしようと、あれこれ考えております。ここ数日、秋のさわやかな日々が続いています。もうすぐ街路樹のプラタナスも全て黄色く変わり、大きな葉を落し始めるかもしれません。これから、気温がどんどん下がりそうです。季節の変わり目ですので、風邪など引かれぬようお気を付けください。