九寨溝・黄龍の旅 (2012年7月)


中国の団体ツアーに参加する

 夏休みの旅行計画を考えた時、候補が二つ上がりました。一つはチベットのラサ、もう一つは九寨溝でした。知り合いの旅行社の人に相談すると、現在、外国人のチベット個人旅行は禁止されているそうです。それで、九寨溝に決めました。九寨溝は四川省にありますが、四川省の北の奥にあり、甘粛省の南にある隴南市や甘南チベット族自治州(甘南州)のすぐ近くにあります。しかし、蘭州から長距離バスで隴南や甘南州の合作市にはすぐ行けるのですが、そこから九寨溝まで行く路線バスが分かりません。迷っていると、旅行社の人が中国の団体ツアーを紹介してくれました。甘南高原を抜け、九寨溝、黄龍を観光する4日間のツアーで、料金がなんと750元という安さです。九寨溝、黄龍の入場券が合わせて500元ですから、これに3泊のホテル代や食事と観光バスの値段を入れると、どこで利益がでるのでしょう。結局、ホテルの部屋を一人部屋にして、オプショナルツアーの代金を含めて、1350元(17千円程)で申し込みました。

 

蘭州から甘南大草原へ

 蘭州市の東方紅広場を7時に出発し、途中、蘭州西の博物館前でさらにメンバーを乗せ、総勢20人程のグループでツアーが始まりました。バスは30人乗りの中型バスで、幸い新しくてきれいでした。ちょうど8時頃、蘭州南のインターから高速に入り、170km先の臨夏回族自治州(臨夏州)の臨夏市へ向かいました。蘭州市は黄河が流れる東西に広がった街で、南北は黄土高原が続きます。そのため、バスは黄土高原の中を南下して行きます。1時間ほど走って、臨夏に入ると、辺りの風景が少し変わってきました。遠方に黄土高原は続きますが、黄河の支流が流れ、その周りに緑の田園地帯が続きます。驚いたことに、高速を1km走るたびに、大きな回教寺院が見えてきます。4つの塔に囲まれた白いドームの寺院や、青い大きなドームだけの寺院、あるいは、中国式の黒い瓦屋根の寺院と様々ですが、高速に沿って寺院が途切れません。付近の人々も男性は白い円筒の帽子をかぶり、女性は頭にスカーフをまいていました。1時間半ほどで臨夏市へつきました。高速はここまでで、今度は国道213号線を100km先の甘南州の合作市へ向かいます。臨夏市は標高1800m、合作市は標高2900mですから、およそ1kmの登りでした。11時半に合作市に着きました。合作市は甘南州の州都で人口はおよそ8万人だそうです。昼食はフリーでしたので、少し街を歩きました。甘南州には有名なチベット寺院がたくさんあります。夏河のラブラン寺、合作のミラルバ仏閣、碌曲(ルチェ)の郎木寺が有名だそうですが、そのミラルバ仏閣が街の北側にそびえていました。意外に若い人も含めて、チベットの民族服を着た人が多いので驚きました。袖の長い丹前のような着物を羽織り、袖に腕を通さず、その袖を腰のところで帯がわりに巻いています。女性の服も同じですが、着物の丈が少し長いようです。合作はチベット高原の小さな街といった風情でした。


甘南大草原・若尓盖大草原(ノルゲ)を走る 

 バスは13時に出発。甘南の碌曲を経て、四川省のアバ・チベット族チャン族自治州の川主寺鎮までおよそ300km、海抜3500mの高原地帯を走ります。合作を出て30分程走ると、辺りは草原地帯に代わりました。緑に覆われたなだらかな丘陵が続きます。樹木や灌木はほとんど見られません。草原ではヤク、羊、馬などがのんびり草を食べています。その間を馬に乗ったチベット族の牧童が家畜を誘導しています。また、ヤクや羊が道路を横断するために、バスや車がしばしば停まります。

 草原の端に見えた岩肌の山塊の下のトンネルを抜けると四川省へ入りました。草原は甘南よりさらに平になり、周りの展望が延々と開けます。途中、花湖という所でトイレ休憩をしましたが、はるか遠方に小さな湖が見え、辺りは草原の中の湿地帯でした。この辺りはアバ・チベット族チャン族自治州の若尓盖県(ノルゲ)だそうで、花湖からさらに1時間半ほど進むと、若尓盖の町がありました。東側の小さな丘にチベット寺院があり、町の中心にはホテルや商店が密集していましたが、その周りは大草原に囲まれていました。6時間を超える草原のドライブで、途中ほとんど休憩や観光もありませんでしたが、バスの窓から、のんびり草を食む動物達を眺めていると、こちらまでのんびりとした心持になりました。

目的地の川主寺鎮には19時半ごろ着きました。川主寺鎮は九寨溝と黄龍の分岐点で、四川の成都からの観光バスも必ずここを通ります。予定ではここで泊まるはずでしたが、スケジュールを変更し、一気に九寨溝まで行くことになりました。九寨溝までさらに2時間、また、九寨溝に入って迷ったため、ホテルへ着いたのは22時ちかくになりました。翌日は九寨溝観光で7時に出発するため、あわてて食事をして、すぐにやすみました。ホテルは格安ツアーのため、木賃宿よりはましですが、一つ星か二つ星の最低ランクでした。シャワーは使えましたが、タオル、歯ブラシ、石鹸などはありません。普通の部屋は13人のため、二人連れで参加したメンバーは添乗したガイドともめていました。食事も酷いものでした。81卓で、料理は8品出ましたが、肉料理は1皿か2皿で、あとは野菜の炒め物でした。強行軍でお腹が空いていたためか、まあなんとか食べられました。

 

九寨溝観光

 ホテルを7時に出発し、8時頃九寨溝の園内に入れました。中国の自然観光地は自家用車や観光バスを園内に入れず、観光客はチケットを買って、観光地の専用バスや電動車で園内を観光する方式が普通です。九寨溝も同じでした。九寨溝とはチベットの九つの村が集まった谷間を言い、入口が海抜2000m30数キロ離れた一番奥が3100mほどあります。下から三分の一ほどのところで左右に分かれるY字型の渓谷で、その間を大小たくさんの湖沼が点在します。周辺は雨が多いせいか、水量は豊富で、この日も生憎曇りで、時折雨に降られました。

 ツアーの一行と一緒に園内を見て歩きました。まず、手前の双龍海までバスで登り、樹正瀑布、老虎海、犀牛海など見物して回りました。九寨溝は石灰岩のせいで、水は透明に澄み、湖は青々としています。道は板敷の遊歩道が整備され、渓流に沿って歩けるようになっています。犀牛海から、また、バスに乗り、今度はY字の左側の一番上にある長海まで行き、長海と五彩池を見物しました。五彩池は小さな池でしたが、水は鮮やかなエメラルドブルーに輝いていました。そこからまた、Y字の中心にある観光センターまで戻って、少し休憩をしてから、今度はY字の右側の一番上の原始森林へ行き、渓流を歩きながら、天鵝海、箭竹海、熊猫海を巡り、最後に珍珠灘で大きな滝を見物して、また観光センターへもどりました。チベット村を見る余裕はありませんでしたが、1日で主な湖沼や滝を全部見ることができました。ツアーのメンバーは用意周到で、お菓子やパン、果物などをたくさん持参して、休憩の都度食べるので、昼になってもレストランへ入りません。おかげで、こちらは昼食を食べ損ねました。休憩の時飲んだビールが15元しましたから、園内や、周辺の物価は5倍程高く、そうした事情をメンバーはよく心得ているようです。

 九寨溝は雨が降っても、渓流の水は濁らず、また、湖沼の青さは鮮やかで、さすがだと思いました。歩いてみて、ちょうど日本の裏磐梯の五色沼と奥入瀬渓谷を合わせて、規模を大きくしたような印象を受けました。園内のバスは頻繁に来るので、気に入った観光ポイントで降りて、付近を歩き、また、バスで移動するといった風に気ままに見て回れます。夏休みに入り観光客は多いのですが、園内が広いため、さほど気になりませんでした。

 1日かけて九寨溝を見て回り、ホテルで夕食を済ませてから、チベット民族舞踊のショーを見に出かけました。九寨溝の街は谷間の渓流に沿って、何キロもホテル街が続きます。ホテルの数はたくさんあり、何と五つ星のシェラトン・ホテルもありました。驚いたことに、民族舞踊のショーを見せる大劇場が、34軒もあり、それぞれの劇場の前には何十台と観光バスが停まっていました。7月に入ったので、九寨溝は観光シーズンの只中にあるようです。土産物屋も観光客で混雑しており、いったいどれほどの観光客がいるのでしょうか。

 

黄龍観光

 翌日また7時に、九寨溝を出て、黄龍へ出発しました。来る時に通った川主寺鎮へ戻り、そこから黄龍へ向かいます。ただ、その間、地元の水晶博物館、チベット薬草医院、ヤクのビーフジャーキー・センターなど様々な土産物屋へ寄ったので、昼食を済ませて、黄龍へ着いたのは2時を過ぎていました。ツアー・メンバーの希望で、ロープウェイで登ることになり、乗り場へ行くと、長蛇の列でした。おかげでロープウェイを降りて、黄龍の観光を始めたのは3時半を過ぎていました。

 黄龍は、九寨溝のように広い園内をあちこち散策するというより、34qに渡って山の斜面を流れる清流の周りをひと巡りすることになります。清流が流れる岩肌は石灰岩層だそうですが、褐色、あるいは、黄色に近く、それで黄龍と言われるようです。園内の入口が海抜3100m、一番上が3500mあり、九寨溝より高地にあります。景観の中心は石灰岩が浸食されて造られた石灰華段、あるいは、石灰華段丘で、エメラルドブルーの水をいっぱいに湛えた平らなお盆のような池が何層にも重なっています。

ここも華段や渓流、滝のまわりを板敷の遊歩道が取り巻き、そこを歩きながら見物します。高度があるせいか、所々に酸素の吸引設備がある休憩小屋が作られていました。環境保護の観点から、ロープウェイの終点は黄龍の観光ポイントとはだいぶ離れており、華段の見えるポイントに着いた時にはもう16時半を過ぎていました。集合時間は18時ですので、メンバーの中には一番上にある五彩池を諦めて、戻る人も出て来ました。しかし、せっかくここまで来たのに諦めるのは残念ですから、高山病を気にしながら、単独で早足に見て回ることにしました。園内で、大きな華段は一番上の五彩池、中ほどの争艶池、一番下にある迎賓彩池の3カ所ですが、やはり、一番上の五彩池の水が最も鮮やかなエメラルド色をしており、無理をして鑑賞した甲斐があったと思います。写真を取りながら急ぎ足でまわりましたが、他にも黄色い岩肌の上を清流がながれる金沙舗地や、幅の広がった段丘を滝のように水か流れている飛瀑流輝などの見所もありました。また、何より良かったのは、樹木の中の渓流を歩いていると、そこにも小さな華段がたくさんあり、透明な水を湛えているのが、忘れ難い光景でした。おかげで、出口へ着いた時には1820分を過ぎており、ガイドが出口で待っていてくれました。土産物屋では私がさんざ待たされたのだから少しぐらいはと妙な理屈で無理をしましたが、まあ無事に黄龍観光を終えました。
 
 その日は、川主寺鎮のホテルで一泊し、翌日は、また7時にホテルを出発、来た時と同じルートで蘭州へ戻りました。蘭州へ着いたのはちょうど18時半で、行きより少し早かったようです。

 

団体ツアーに参加して

 格安ツアーのため、予想通り、ホテルと食事は酷いものでしたが、観光箇所はどれもすばらしく、楽しむことができました。中国人のメンバーはお菓子や果物、カップ麺などをたくさん持参しており、食事の不足をカバーしていました。バスの中ではガイドがジョークを交えて由来などを長々と説明しますが、結構、ちゃんと聞いており、問いかけに反応したりしていました。朝7時に出発し、目一杯観光し、遅く戻りましたが、あまり文句も言わずガイドの指示に従います。こちらが老人の一人旅だったので、メンバーの皆さんからそれとなく大事にしてもらいました。

 今回の観光では、私は九寨溝より、黄龍に感心しました。九寨溝は自然を楽しむ施設で、規模は別として日本でも似たところがあるような気がしました。それに対して、黄龍の景観は日本では体験できないのではないでしょうか。機会があれば、今度はゆっくりと黄龍を楽しんでみたいものです。

 今回は、甘南、九寨溝とチベット文化圏の旅でした。急ぎ足のため、あまりチベットに浸ることはできませんでしたが、そのうち、青海からラサへ抜けるチベット旅行にチャレンジしてみたいと思います。