蘭州近況その32 (2014年6月)


契約更改あれこれ

 冷え込んでいた楡中もようやく30℃を超える夏日になりました。ただ、先週は珍しく夕立が続き、おかげで、清涼な日々が続いています。

 74日にやっと公安警察から査証(居留許可証)が下り、パスポートを返却してもらいました。これで来学期からまた1年、蘭州大学にお世話になることになりました。甘粛省で査証を貰うのはこれで5度目になりますが、毎回毎回めんどうで、少しも慣れません。査証の取得や契約は各省や大学によって異なります。蘭州大学では外国人教師の契約は単年度が原則です。まず3月の終わり頃、大学へ契約更新申請書を提出させられます。要は、来期も働きたいという意思表示をすることになります。それからしばらくして、査証の期限の1ヶ月ほど前になると、大学から契約書のフォームが送られてきます。それを機に検疫所へ出かけ、健康診断を受けます。血液、尿、レントゲン、心電図、それから腹部のエコー検査とたくさん受けて、検査代365元を自費で払います。数日後にその結果を大学へ提出すると、大学では契約手続きに入ります。双方で契約書へのサインが終わると、大学は専家証を作成してくれます。この専家証とパスポートを持って、公安へ行き、手数料400元を払い、査証を申請します。そして、問題がなければ1~2週間ほどで査証が貼られたパスポートを返却してもらえます。キャンパスが楡中のため、検疫、契約、公安と都合6回、蘭州へ出かけました。むろん、土日は休日のため、平日に授業の合間をぬって出かけました。スクール・バスの本数が少ないため、書類を提出するだけでも行き帰りで半日はかかります。この間、1ヶ月以上にわたって、パスポートを大学や公安へ預けているので、どこへも出かけられず、ひたすら待つだけでした。

ただ、この7月で67歳になります。最近中国の各省では専家証や就労の査証を高齢者には出さないという話をよく聞きます。ひょっとしてこのためトラブルのではと思いましたが、何事も無く査証をもらうことが出来ました。もっとも、教師の傷病保険は大学が負担してくれますが、私の場合、医療保険は保険会社から断られ、傷害保険は割高な保険料を取られています。なんだかだんだん肩身が狭くなるようです。

 

全国統一考試(全国統一大学入学試験)の話

 例年、中国では67日から全国統一大学入試が行われます。今年の志願者数は中国全土で939万人だったそうで、その数の多さに驚きます。中国の大学入試は複雑で、学生にたずねても詳細はなかなか理解できませんでした。統一入試とは言いますが、試験の方法や問題は省によって異なり、また試験科目も異なります。普通、試験期間は2日間ですが、上海市や江蘇省などは3日間行われます。科目は国語、数学、外国語が基本で、文系はこれに政治、歴史、地理の3科目、理系は物理、化学、生物が一般的なようです。試験の得点により志望校へ入学できますが、点数が足りなければ2次志望、3次志望の大学へ割り振られることになります。有名大学は他省の受験生にも枠があり、入学することができますが、若干自省の受験生に有利なようです。従って、北京大学は北京市の受験生に、南京大学は江蘇省の受験生に有利ですので、子供の住所を志望校の省や教育レベルの低い省へ移す親もいるほどです。試験結果は地元の新聞で大々的に発表され、特に文系、理系のトップ合格者は「状元」(昔の科挙の首席)として写真入りで報道されます。大学の最難関は北京大学や清華大学ですが、最近、香港大学や香港中文、香港科技大学なども人気が高くなりました。

全寮制の高校も多い中国では受験勉強の舞台は高校になります。高校2年か3年で文系、理系のクラスに分けられ、朝7時から教室で自習、夕食後も22時まで教室で自習をさせられ、担当教師も付き添うようです。試験に失敗すれば、日本のように浪人となりますが、これも日本のような大手の予備校があるわけではなく、出身校に戻って勉強する受験生も多いようです。高校には浪人専用のクラスもあるそうです。

先日、CCTVの番組を契機に、河南省で大規模な不正入試が発覚しました。替え玉受験で127人が摘発されたそうです。最近では試験会場に入るには、金属探知機をくぐり、指紋認証も行われています。しかし、替え玉受験のブローカーがおり、試験監督官も買収されているため、難なく替え玉が受験できるようです。学生たちと話していたら、ある学生が、私も先輩から替え玉にならないかと声をかけられたと言っていましたから、河南省に留まらず、あちこちに広まっているのかもしれません。

ところで、残念なことに最近の経済情勢を反映して、日本語科の就職率が落ちています。そのため、日本語科の人気が少し落ちました。日本語科の学生で1次志望の学生は1割程度で、他は2次、3次志望ですが、点数が足りないため、志望していないのに割り振られたという学生も少なくありません。「まさか日本語を勉強することになるとは」と自嘲的に呟いていますが、これらの学生をモラルアップさせるのはなかなかしんどいことです。最近では学内試験を受けて、他学部へ転部する学生も若干出てきました。

 

大学で何を学ぶの?

 2年生の作文の授業で「大学、大学生の課題」をテーマに小論を書かせました。読んでいると現代の中国の学生の大学への期待が良く分かります。多くの学生は大学生の課題は社会的実践能力を身に付けることだと指摘します。今の大学生は、大学へ入るまで受験一筋で、その他は何から何まで親掛かりだったため社会生活の能力に欠けており、また、卒業時には厳しい就職活動にさらされるためリーダーシップや事務処理能力などの実践能力を高める必要があると言います。そのためには、授業に出席するだけでは無く、クラブ活動や社会実習に参加し、さらには、アルバイトも積極的に行うべきだそうです。

 中国の大学では日本ほどクラブ活動が盛んではありません。それでも、教養、趣味、スポーツと様々なクラブがあります。現在一番人気が高いクラブは、環境保護のグリーンクラブと音楽全般のギタークラブだそうです。ただ、活動は1年生が中心で、2年、3年になると管理や指導で手伝う程度であまり活動には参加しなくなります。

 また、大学では昨年から社会実習活動を強化しています。これまでは休暇中、ほんの12週間アルバイトをしても、それで単位がとれましたが、今後は、少なくとも3週間以上、大学に登録された実習活動に参加しなければならなくなりました。内容は、ボランタリー活動、社会調査や自然観察など様々です。僻地の農村に泊まりこんで、そこの小学校で子供たちの勉強を指導したり、あるいは、大学の研究機関とタイアップして、農村の環境意識調査や湿地帯の生態観察をしたりといろいろ聞きますが、どうもグループで合宿活動を行うことが条件のようです。活動地域は他省にも広がっていますので、大学間で融通を効かせているのではないでしょうか。

 大学生の増加に伴い、最近の学生は就職への意識が高くなりました。12年生でも就職の心配を口にします。大学院卒の学歴が有利なせいか、文系でも大学院を目指す学生が少なくありません。さらに、蘭大に限らず、第2学位の取得が増えてきました。例えば、日本語科の学生でも、土日や季節休暇中に法律学院の所定の授業を受けて単位を取れば、法学士の学位がとれるという仕組みです。ただ、その費用は結構高く、23000元はするようです。なんだか大学の商売上手が目につきます。大学の学費は物価と同じように年々高くなり、さらに、第2学位や大学院、あるいは留学と、子供の夢を助けようと頑張る親たちの負担もますます大きくなり、同情に堪えません。

 今週でいよいよ今学期の仕事が終わります。週末までに試験の採点を済ませて、旅行にでようと思っています。今回は、甘粛省の甘南チベット自治州からさらに南へ下り、四川省の若尓盖高原をゆったり散策してみようと思っています。旅行記はまた増刊にでもまとめてお送りしたいと思います。

                                

追:大学院の費用は、日本では学生が自分で頑張るケースが多いと思いますが、中国ではまだまだ親掛かりが多いようです。留学では、学費や渡航費は親が負担しますが、留学先での生活費は学生が奨学金やアルバイトで賄うようです。