蘭州近況その27 (2013年11月)


修理の話後日談

 先週の金曜日と土曜日に楡中では雪が降りました。今シーズンは10日の夜に初雪があり、うっすらと積もりましたが、翌日すぐ解けました。それが金曜日には朝から降り始め、またたくまに辺りは真白な銀世界に変わりました。雪は降ったり止んだりで二日間続きましたが、23pの積雪で済みました。ただ、最低気温は−10℃近くまで下がりました。部屋に暖房はありますが、さすがに冷え込みます。

 ところで、昨年の今頃近況(近況その20)でパソコンの修理について書きました。今回はその後日談です。昨年11月の末にパソコンが故障し、蘭州の修理屋で、ファン(冷却用扇風機)とディスプレイ・カードを換えてもらいました。その後、6月頃からまたファンがおかしくなり、パソコンの電源を入れた時、時々ファン・エラーでパソコンが起動しなくなりました。ノートパソコンですので夏休みに帰省した時に持ち帰り、日本でも使っていました。ファンの状況は次第に悪くなり、10回、20回と電源スイッチを押し直してようやく立ち上がる始末です。8月に日本のパソコンショップで相談すると、相変わらず、預かってメーカーへ修理を依頼するので直るまで1ヶ月以上はかかると言われ、さらには、機種が古いので部品の在庫があるかどうかはメーカーに送らないと分からないと言われました。仕方がないので、中国へ戻るまで騙し騙し使い、9月に戻った時に件の修理屋へ持ち込み、ファンを交換してもらいました。交換は23時間ほどで終わりました。前回交換してからまだ1年も経っていないので、費用は150元を130元にまけさせました。さて、そのファンが11月にまたおかしくなり、何回も電源スイッチを入れないと立ち上がらなくなりました。仕方がないので、また修理屋へ持ち込み修理を依頼しました。その時、ディスプレイもやや赤みがかかり暗くなっていたので、修理屋からファンとディスプレイ・カードの交換を勧められました。修理は翌日終わり、費用は、ファンは保証期間中で無料、ディスプレイ・カードは前回と同じ120元でした。

 現在、日本では故障の原因にもよるでしょうが、部品交換を含めた修理は全てメーカーへ持ち込みます。メーカーショップで見てもらっても工場へ持ち込むため、修理にやたらと時間がかかり、おまけに修理代、部品代はとても高価です。それに対して、中国では蘭州の電子城へ行けば、修理屋があり、そこで修理をしてくれます。ただ、部品は純正部品を使わず、安価な代替品を使っているようです。修理代を含めて、費用は100200元ほどですが、どうも部品の品質が悪く、1年も持ちません。いったい日本と中国の修理方式、ユーザーにとってどっちが良いのでしょうか。考えさせられます。

 

「半沢直樹」人気の秘密

 この夏、日本ではテレビドラマ「半沢直樹」が評判で、9月の最終回では、視聴率が40%を超えるという異常人気になりました。中国でも「半沢直樹」は人気があり、学生たちもよく見ています。いったい中国ではこのドラマの何がおもしろいのでしょうか。作文の時間に、「半沢直樹」の感想文を書かせてみました。一部に、中国では善と悪の対立ドラマが好まれるといった意見や、恋愛がないのでつまらないという女子学生の意見もありましたが、まとめると次のようになりました。

「半沢直樹」人気の秘密

@ 各俳優陣の熱演         

各俳優の熱演が良かった。特に、堺雅人、香川照之、片岡愛之助、上戸彩などは中国でもよく知られており、その演技に人気が集まった。

A 華麗で巧みなドラマの舞台

舞台が超一流の日本のメガバンクであり、また、銀行業務の細部に渡ってドラマ化されており、現実感があった。

B 困難を切り開く反骨精神        

主人公は、正しいと思ったことは上司に反対してまでやりぬき、どんな困難にもめげずに目的を達成していく。その姿に感動した。

C 印象的なセリフ

「人の善意は信じるが、やられたらやりかえす。倍返しだ。それが私の流儀なので。」

「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」

などのセリフがとても印象的であった。

学生たちの9割以上がこのドラマをおもしろいと評価していました。上にまとめた人気の理由は日本のそれとほとんど同じです。こうした社会派ドラマが中国でも支持されるということは、中国のビジネス社会も同じようなレベルに近づきつつあり、違和感がなくなってきているのではないでしょうか。

また、日本ではこのドラマの結末が話題になりました。半沢の活躍で常務の不正が明らかになりましたが、結末では常務が取締役に降格と軽い処分に、半沢は子会社への出向と昇進なのか降格なのかよく分からない辞令を受けて終わりました。そこで、学生たちに、

@ 頭取悪人説

頭取も常務と同じように権力を求める悪人であり、大組織でこうした悪人が出世する。頭取は半沢をうまく利用し、敵であった常務を失脚させた。そして、常務への処分を軽くして恩を売り、用の無くなった半沢は子会社へ出向させた。

A 頭取善人説

頭取は「罪を憎んで人を憎まず」であり、常務へも厳しい懲罰は与えず、温情をしめした。半沢に対しては、将来の頭取候補として経験を積ませ、育てたいと思い、子会社へ出向させた。

二つの解釈のどちらだと思うかと聞いてみました。結果は圧倒的に前者の悪人説でした。続編が作られると聞いていますが、はたしてどちらなのでしょうか。日中関係の悪化から、現在テレビでは全く日本のドラマの放映がありません。しかし、学生たちはパソコンでダウンロードして、日本の様々なドラマをよく見ています。

 

日本語からの借用語

 私は漢字が気に入っています。その理由は見てすぐわかること、それから、漢字自体の美しさです。現在、世界で漢字を使っている国は日本と中国、台湾だけになりました。古代、日本では中国から漢字を習い、苦労して日本語に取り入れました。文字だけではなく、音読みの熟語に代表されるように、中国の語彙そのものも大量に輸入し、それまでの日本に無かった抽象的な概念を含めて、日本語の表現を広げ、精緻にしました。

ところで、長い日本と中国の交流史ではその逆もあります。多くの日本語が中国に取り入れられ、中国語の表現を広げることに役立ってきました。中国で使われるようになった日本語、即ち中国語からすれば外来語を「日本語からの借用語」と言います。歴史的に見ると、中国が借用語を特に多く輸入した時期は、日清戦争後の1890年代後半から、五四運動で抗日が盛んになるまでのおよそ20年間だそうです。この時期は、多くの中国人留学生が日本に来ています。魯迅や蒋介石、周恩来、そして、孫文も日本へ来ています。借用語では、戊戌変法(清朝での体制内改革)で敗れて日本へ亡命した梁啓超が大きな影響を与えました。梁は清の旧弊に危機意識を抱き、日本の近代化に学ぶため、日本の書物の翻訳運動を起こします。これに鼓舞された多くの留学生がたくさんの書物を中国語に翻訳し、そこに書かれていた多くの新しい言葉が借用語として中国で使われるようになりました。

この時期の借用語は政治、科学、哲学、芸術と多岐にわたり、特に、学術用語が多いのが特徴です。日本では明治に入って、多くの学者たちが西欧の書物を翻訳しました。その時、日本語に無かった言葉をカタカナで表記するのではなく、漢字を使って新しい言葉をたくさん作りました。明治期の学者たちは漢籍に堪能でしたから、新造語を作るに際して、出典を漢籍に求めたものも多かったようです。有名な言葉に経世済民から取った経済や周の年号から取った共和などがあります。これらのたくさんの新造語が中国の留学生によって翻訳される時、借用語としてそのまま中国語で使われるようになりました。

次に、主なものを列挙してみます。

(政治関連)政治 民主 政党 共産主義 階級 政府 行政 同盟 独裁 組合 議会  

(科学関連)科学 物理 生物 化学 建築 機械 原子 元素 電子 電流 物質 瓦斯

(一般関連)民族 宗教 農民 歴史 社会 国際 放送 美術 交通 石油 権利 義務

(経済関係)経済 商業 企業 広告 配給 景気 投資 業務 代表 資本 労働 現金

(哲学関連)哲学 倫理 心理 論理 象徴 抽象 現実 理想 原理 意識 関係 現象

(保健衛生)医学 衛生 結核 流感 細胞 神経 生理 注射 伝染病 動脈 消毒

などとたくさん出てきます。これらの借用語を見て驚くのは、今では普通に使われている語彙がとても多いことです。おそらく中国人自身もそれが借用語であることをほとんど意識しないで使っていることでしょう。(もちろん音は中国語で、表記は簡体字ですが。)出典が漢籍のものもあるので、借用語がいったいいくつあるのか、現在では研究者の間でもめているようですが、学術用語の細部を含めればおそらく数千のオーダーに達するのではないでしょうか。日本ではこうした新造語のおかげで近代化が進んだように、中国の近代化もこれらの借用語により早められたことと思います。中国における共産主義革命もこれらの借用語がなければ、あれほど速く広がることはなかったでしょう。現代中国の為政者もこうした歴史を思い起こせば、もう少し日中関係がスムースになるのではないでしょうか。