蘭州近況その21 (2013年3月)



蘭州にもPM2.5が漂う

 後期の新学期が始まりました。今年の蘭州は暖かく、東京や横浜より暖かい日々が続いています。日本から2月の下旬、元宵節の二日ほど前に戻りました。蘭州へ戻る時、上海上空は茶褐色の霧で覆われ視界がよくありませんでしたが、蘭州の上空はカラリと晴れて視界が良好でしたので、ホットしました。昨年の末頃から北京の大気汚染が大きな話題になっています。今年の1月、北京は連日厚い濃霧に覆われ、霧の無い日は5日ほどだったと言われます。また、北京に限らず、濃霧は西安、南京、武漢、瀋陽など中国全土に及びました。この濃霧の中には、PM2.5とよばれる有害な微小粒子が含まれ、その名は日本でもすっかり有名になりました。日本に居る時、友人達から大気汚染についてだいぶ心配されましたが、北京のような酷い濃霧を経験したことがなかったので、蘭州は大丈夫と答えてきました。

 ところが、先日インターネットで中国の大気汚染の警告サイトを見てびっくりしました。警告サイトは中国のAQI(大気質指数)の計測値をリアルタイムで掲載しており、その数値を優、良、軽度汚染、中度汚染、重度汚染、厳重汚染の6段階に分けて警告しています。228日の蘭州の状況を見てみると、汚染レベルは厳重汚染で、その数値はその日の中国で最悪でした。また、39日から1週間ほど、厳重汚染レベルが続きました。キャンパスのある楡中は蘭州市から40km以上離れた農村地帯ですので、汚染を楽観していましたが、掲載された数値をみると蘭州よりは低いものの、それでもしっかり厳重汚染でした。蘭州、そして、楡中ではこれまで北京の写真に見るような分厚い濃霧に覆われたことがありません。9日はさすがに近くの萃英山も霧で霞み、遠方の見通しはききませんでしたが、一寸先が霞むといった程ではありませんでした。それでも、測定値は厳重汚染でした。結果に暗澹としましたが、普段通りの生活を送りました。外へ出ても息苦しいわけでは無く、嫌な臭いがあるわけでもありません。また、学生達もマスクをせずに普段と変わらずにキャンパスを出歩いています。AQIの数値は結構変動が激しく、カラリと晴れた日は良から軽度汚染レベルに、少し曇った日は中度から重度へ、そして、時たま厳重汚染レベルへ跳ね上がります。数値が悪いと分かっても、これまで気付かず生活してきたので、なんだか狐につままれたようで、戸惑います。AQIの公表は今年からですが、以前から冬期の蘭州の大気汚染は有名でした。きっとこれまでも度々厳重汚染のレベルにあり、私たちが気にせず過してきただけなのでしょう。そう言えば、中国のサイトに大気汚染への対処法が出ていました。外出には医療用のマスクをして出かけ、汚染がひどい時には外出を控え、窓を開けて換気をしたりしないことと一般的なことが書かれていましたが、いかにも中国らしかったのは、食事療法が紹介されていたことです。シロキクラゲ、氷砂糖、ハスの種、レンコンなどを食べると、肺の異物を排除する機能が高まるので良いそうです。これから務めて、キクラゲやレンコンを食べることにしましょう。

 

失独家庭や老漂族あれこれ

 新学期が始まって1、2週間後に、楡中キャンパスで学生の自殺がありました。1年生の男子学生が学生寮から飛び降りたそうです。その寮は私の宿舎からも近いので、あまり良い気分ではありません。また、本部キャンパスでも大学院生の自殺があったようです。学生達は実家からのプレッシャーが原因ではないかと噂をしていました。60年以上生きて来た身からすると、どんな悩みがあるにせよ死ぬのはもったいないと思います。また、苦労して大学生になるまで育てたのに、子供に死なれた両親を思うと同情に堪えません。一人っ子でしょうから、なおさらでしょう。こうした子供を失った家庭を最近では「失独家庭」と言い、その老後が問題となっているようです。精神的な喪失感を別にしても、中国ではまだまだ年老いた両親は子供が養うということが一般的ですので、老後の生活問題としても切実なものがあるようです。

最近、中国では老齢年金の格差が問題になりつつあります。公務員には手厚い年金が保障されているようですが、一般企業の従業員、そして、農民に対しては、年金制度はあるもののその金額はまだまだ少ないようです。子供達は都会へ働きに出て、地方では老人だけの世帯「空巣老人」が増えて社会問題になっています。地域によって異なるようですが、結婚に際して新郎側が家を買う所が多いようです。都会のマンションは飛びぬけて高いので、若い新郎が買うのは無理で、結局親がその資金を出すようです。親からすると、老後は子供に養ってもらうという意識があるので、無理をしてでも子供に家を与えるのでしょう。最近、「老漂族」という言葉が出てきました。地方を引き払って、都会のマンションで子供達の世話になっている老人達を指すようです。地方から出て来たため、都会の生活になじめず、昼間子供達は働きに出ているため、マンションの一室で孫の世話をしながら寂しく暮らす老人達だそうです。まだまだ年老いた親は子供が養うという社会通念が強いようですが、そろそろ一人っ子の親達が老齢期にさしかかりつつあります。やがては日本のように自分の老後は自分で面倒をみるという意識に変わることでしょうが、それ以前にいろいろ問題がありそうです。

 

12期全国政協、全人代、両会が開かれる

 33日から17日まで北京で、中国人民政治協商会議と全国人民代表大会、いわゆる両会が行われました。ここで国家や政府の役職が決定され、習近平が国家主席、李克強が首相に選出されました。これで、胡錦濤主席、温家宝首相が引退し、完全な習近平体制がスタートすることになります。昨年11月の共産党大会では、政治局常務委員(チャイナ・セブン)に胡錦濤派の顔ぶれが少なく、惨敗との評でしたが、今回は副主席や副首相に胡錦濤派が多く、盛り返したと言われます。日本の報道では、政治基盤が弱い習近平主席は軍への接近を強め、富国強兵への道を歩んでいると、あまり評判がよくありません。こちらでは、習近平主席が、中華民族の偉大な復興が中国の夢であると語ったことで、新聞やテレビの報道で盛んに「中国の夢」という表現が使われています。

 習近平主席は昨年より折に触れて、行事は簡素に、演説は簡潔に分かり易く、宴会で食べ物を残すななどと指導しています。そのため、北京の花屋や有名酒造メーカーが倒産の危機に陥ったという報道もありました。一時は数千元と値がつり上がった茅台酒の価格も元に戻りつつあるようです。宴会では食べきれない程頼むのがホストの心得ですが、高価な海鮮料理がほとんど手をつけられず残されていることが話題となりました。不必要な虚礼や派手な浪費がなくなるのは良いことではないでしょうか。キャンパスでは、人のために尽す奉仕精神を訴える雷鋒運動の立看が目に付きます。雷鋒は若くして死んだ軍人ですが、毛沢東が「雷鋒同志に学べ」と言ったことで英雄となりました。奉仕をアピールするのは悪くありませんが、少し復古的な感じがします。

ところで、両会の模様をテレビなどで見ていると、壇上に並ぶ指導者達の頭髪がみな黒々していることに驚かされます。誰一人白髪の指導者がおりません。頭髪を染めている指導者が多いことと思いますが、健康で若々しさを強調しないと中国では指導者になれないのかと茶々を入れたくなりました。

 この冬は暖かかったせいで、花の開花が早そうです。武漢大学の桜はもう満開だそうです。楡中キャンパスでも、ある学生寮の庭に迎春花が植えられており、黄色い可憐な花が咲きだしました。そのうち桃や杏が咲きだすことでしょう。楽しみにしています。