蘭州近況その19 (2012年11月)


18回共産党大会が終わる

 始まる前からメディアをにぎわせていましたが、5年に1度の第18回中国共産党全国代表大会が終わりました。参加者はおよそ2300人だそうで、党の幹部だけではなく、各省の模範労働者やオリンピック選手など各界の人達が選ばれて出席していました。少数民族の代表者達はきらびやかな民族衣装で着飾り、ちょっと見た限りでは全国人民代表会議と同じように、お祭り騒ぎのようなところもありました。初日は胡錦濤主席の基調報告で始まり、41名の主席団常務委員が選出されて大会が始まりました。驚いたことにこの41名の中に江沢民や李鵬、朱鎔基などの長老も含まれていました。次の日から主席団指導の下で、主席団会議や各省毎の分科会が行われました。そして、14日の最終日に投票が行われ、18期共産党中央委員、委員候補376名、中央規律委員130名を選出し、幕を閉じました。

 翌15日にその18期中央委員会全体会議が行われ、ここで25名の政治局委員が選出され、さらに、その中から7名の常務委員が選出されて、18期新中央指導部が発足しました。常務委員の顔ぶれは、習近平、李克強、張徳江、兪正声、劉雲山、王岐山、張高麗(敬称略)となりました。会議の後、内外の報道陣へ新常務委員のお披露目が行われ、習近平新総書記のスピーチ(就任演説)がありました。ただ、報道陣からの質問は受け付けませんでした。

 

チャイナ・セブン

 以前にも書きましたが、この中央委員会政治局常務委員の7人がこれからの中国の最高指導者となります。中国研究者の遠藤誉さんの命名によれば「チャイナ・セブン」というようです。このチャイナ・セブンは日本を始めとする欧米メディアにはあまり人気がありません。その理由は、習近平、李克強を除いた新メンバーは皆60代で新鮮味がなく、派閥も上海閥や太子党が多く、保守的であり、政治改革や国際協調路線への期待が薄いためのようです。党大会の随分前から、このメンバーの名前は欧米の華人メディアや香港メディアで予想されており、あまり意外性がありませんでした。

 チャイナ・セブンの選出は、多くのメディアから派閥抗争として報道されていました。この面からみると、胡錦濤主席は惨敗したことになります。それは、チャイナ・セブンの中に、自派の李源潮や汪洋を入れられず、団派は李克強のみとなり、多数が上海閥と太子党で占められたためです。ただ、一部メディアによると、胡錦濤は中央軍事委員会主席の地位も引退し、これにより江沢民などの長老支配に終止符打ち、かつ、軍事委員会の副主席や委員に自派のメンバーを多く就任させたと言われます。また、常務委員の下の政治局のメンバーに、李源潮、汪洋の他に、劉延東、劉奇葆、胡春華、張春賢などの団派のメンバーを多く取り込み、次への布石を打ったとも言われます。もっとも、誰が何派なのかはメディアによって異なり、その解釈によって、政権の特徴をどうにでも言うことができるので、あまりはっきりたしことは分かりません。ところで、今回この政治局メンバーに、「第6世代」と言われる若手のリーダー達の中から、胡春華内蒙古自治区党委書記と孫政才重慶市党委書記の二人が選ばれました。彼等はまだ49歳であり、現在は小胡錦濤と言われる胡春華が頭一つリードしているようですが、今後習近平の次を目指して、激しいトップ・レースを展開していくものと思われます。

 テレビで習近平新総書記の就任演説を聞きましたが、内容は別として、落ち着いて、なかなか堂々とした話しぶりで、流石だと思わせました。習近平は温厚で敵を作らない性格だと言われます。テレビで見ると、李克強は才気煥発で、積極的に話している姿がよく映りますが、習近平はどちらかというと聞き役で、自分で話すよりは人の話をよく聞く方が多いようです。悠揚迫らずといったタイプで、保守派と言われますが、一部メディアでは隠れ革新派と書かれていました。これまで寡黙だったため、まだよく知られていないのでしょう。ただ、いずれにせよ私にはチャイナ・セブンの間には、派閥争いは有っても、あまり政策の違いは無いのではと思えます。

習近平の奥さんは彭麗媛という有名な美人の軍人歌手で、彼女の写真を学生達に見せると誰でも知っていました。中国では軍隊に所属する歌手がめずらしくありません。初めて中国に来た当時は、歌番組で軍服を着て歌う歌手が多いのでいぶかしく思いましたが、後で彼らが軍人であることを知りました。

チャイナ・セブンの誕生に際して、外国メディア、特に、日本のメディアは過熱と言ってよいほどの報道ぶりでした。少し前にあったアメリカ大統領選挙より、報道量が多かったのではないでしょうか。中国でも党大会の模様は盛んに放映されましたが、党大会が終わると、すぐにいつもと変わらぬ雰囲気に落ち着き、新指導者の誕生に浮かれた模様はありません。どうも日本が騒ぎ過ぎなのかもしれません。また、選挙によらず、党幹部の力学や調整によって決まっていくチャイナ・セブン選定プロセスは、私にはまるでどこかの超大企業の社長や取締役の選出や人事のゴシップを見たり、聞いたりしているようでしたが、それなりに楽しめました。

 

狗不理包子(ゴウブリバオズ)

 楡中からスクール・バスで蘭州へ出かけた時、「狗不理」と看板のかかったレストランを見つけました。後でネットで調べてみると、やはり有名な天津の狗不理レストランの支店でした。北京ダックで有名な北京の全聚徳と並んで、包子(中華まん)の狗不理は誰でも知っている有名店で、清朝末期に開店し、西太后も食べたという包子の老舗です。狗不理を日本語にすると、「犬はかまわない、犬をかまわない」といった意味となり、店主の狗某さんが店が忙しくて周りの人を無視していたから、あるいは、忙しいので愛犬の世話もしないといった由来があるそうです。

私は天津へ行ったことがないので、まだ狗不理包子を食べたことがありませんでした。それで先日、さっそく学生達を誘って、狗不理包子を食べに出かけました。店は蘭州の東、やや中心街から外れた所にありました。包子というので大衆レストランかと思いましたが、個室がたくさある高級レストランでした。名物の包子はやや小ぶりの中華まんで、一つ一つ小さな蒸篭(セイロ)に入っています。肉包子や野菜包子が56種類あり、1つ56元でした。他に蟹や海老の包子があり、こちらは10元前後と高額でした。我々はメニューにあった4つで23元の包子セットと他に一品料理をいくつかたのみました。包子の餡は肉にしろ野菜にしろいろいろな素材が混ぜてあり、なかなか美味でした。ただ学生達に言わせると、包子は他で食べればせいぜい12元なのに、この値段では割高だと少々辛辣でした。ただ、私はこのところキャンパス料理に食傷気味だったため、久しぶりに高級レストランの料理が食べられて満足できました。

ネットによると、狗不理は日本でも池袋の西武百貨店の中に出店しているようです。ただ、写真で見ると包子が数百円もするような高級レストランのようです。蘭州のような遠方にも狗不理が店を出しているのは意外でした。全聚徳も蘭州駅の直ぐ側に店を出しています。これからも有名で手頃なレストランがあれば、学生達と食べ歩いてみたいと思います。

早いもので、もう12月に入りました。楡中は11月に入って冷え込むようになりました。もう5回も雪が積もっています。ただ、乾燥地帯ですので、積雪はせいぜい23pで、翌日、日が照るとすぐに融けてしまいます。この冬はスチーム暖房が早めに始まりましたので、あまり寒さを感じませんでしたが、それでも日中は56℃、夜半は−78℃まで下がります。最近、夕飯を食べてからキャンパスを歩くと、凍てついた空に煌々と丸い月が輝いています。月の光は青白く冴えわたり、思わず身震いをして、宿舎へ戻る足が速くなります。楡中は冬の只中へ入ったようです。