蘭州近況その15 (2012年5月)


5月の花

 今年の春は雨が多く、昨年より涼しいようです。昨年の近況を見ると、5月の連休を過ぎたあたりから気温が30℃を越すようになりましたが、今年はまだ30℃を越したことがありません。それでも、日中は気温が上がり、学生達もすっかり半袖やTシャツ姿ですが、朝晩はかなり涼しく、長袖やジャケットが必要になります。4月の末にライラックや梨、リンゴの花が盛りでしたが、5月に入ると、薔薇や牡丹が咲き始めました。薔薇は中国産のやや小ぶりな黄薔薇で、花の形は八重と一重の2種類あり、キャンパスのあちこちで咲き始めました。牡丹は図書館の裏にある牡丹園や、将軍院に植えられており、色は、ピンク、白、紅色の3種類で、灌木いっぱいに大輪の花が咲き誇ると、なかなか豪華です。

そして、薔薇や牡丹が盛りを過ぎた頃、今度は槐の花が咲き始めました。槐はキャンパスの歩道にそって街路樹として植えられており、国槐と刺槐の2種類あります。このうち刺槐は、白い小さな花が房状に集まり、枝の先からたくさん垂れ下ります。刺槐は日本ではニセアカシアとか、ハリエンジュと言われるようです。また、キャンパスの東側には香花槐の並木があり、これはピンクがかった紫の花を咲かせます。

4月の始めから、楡中のキャンパスに花が咲き始め、5月の末まで、次々と様々な花が咲きました。2年目の春でしたので、どこでどんな花が咲くのかおよその見当がつきました。授業の前後に、カメラを片手に花の写真を撮り歩きました。ただ、写真を撮っていて気が付きましたが、ちょっとタイミングを外すと、花の盛りが終わってしまい、プロのように咲き誇った花の写真を撮るのはなかなか難しいものです。

5月の中旬に、友人の元IBMIさんがわざわざ蘭州へ訪ねてくれました。西安までは日本の観光客は多いのですが、なかなか蘭州まで足を延ばす日本人はおりません。ありがたいかぎりです。学生達と蘭州の中山橋、劉家峡の炳霊寺、そして、楡中キャンパスを案内させてもらいました。ちょうど、薔薇や牡丹が終わり、槐が盛りの時期でした。

 

平涼市への旅

 少し前になってしまいましたが、4月の終わりに、甘粛省外事局の主催する平涼旅行へ参加しました。平涼市は甘粛省東部にある人口230万人の都市で、蘭州から250km東にあります。寧夏、陝西省に隣接しており、古くから、シルクロードなどの交通の要衝として栄えたようです。観光箇所は庄浪県の棚田、こうどう山(こうどうさん)、雲崖寺の3カ所でした。

蘭州から平涼へはバスで高速道路を行きましたが、周りの景観は蘭州や、楡中と同じように黄土高原が続きます。赤茶けた丘陵地帯がどこまでも続きますが、平涼市の庄浪県では、そうした丘陵地帯を棚田に変え、麦や野菜、果樹の生産拠点として成功しているようです。県の棚田記念館の展示をみると、棚田の開発は改革開放後に行われ、多くの人出で、山を削り、灌漑施設を作って、棚田に作り変えたようです。こうした方式はその後付近一帯に広がり、私のいる楡中でも黄土丘陵の所々で棚田が見られます。中国で棚田というと貴州省が有名ですが、照葉樹林帯に属する貴州省の棚田が水田なのに比べ、乾燥気候の甘粛省では畑や野菜がせいぜいなようです。

 平涼といえばこうどう山で有名だそうです。平涼市の西の郊外に2000mほどの小高い山々が連なり、その一角が道教の聖地として、古くから賑わっているようです。秦漢の時代から寺院が立てられたそうですが、現在では付近の山頂一帯に「九宮八台十二院」があるそうです。昔の信者達は山の頂や峰々にあるこうした宮や院、堂などを順に巡りお参りをしたようですが、現在では中央の山頂広場まで車で一気に登り、気楽に観光ができます。

 最終日は、庄浪県にある雲崖寺へ行きました。ここは山腹の岩壁に掘った石窟や寺院があります。甘粛省では、敦煌を始めとして、そこここに石窟があります。平涼市の南にある天水にも大きな石窟がありますが、雲崖寺はさほど規模が大きくありませんでした。山腹の堂や石窟を巡っていると仏教の仏様の隣りに、道教の神様が祭ってありました。そういえば、昨年行った天水の仙人崖洞窟では、釈迦、黄帝、孔子が一緒に祭られていました。日本でもよくお寺と神社が一緒に建てられていますが、中国でも民衆にとっては、仏教も道教も儒教も同じようにありがたい神様なのでしょうか。

 

講演を行う

 昨年もそうでしたが、5月は行事が多く、忙しい月でした。4月の末にスピーチコンテストの学内予選大会が開かれ、それから19日には、中華全国日本語スピーチコンテストの西北地区予選が蘭州大学で行われました。また、その翌日、論文答弁が行われ、審査員として駆り出されました。

さて、そのスピーチ大会ですが、昨年は、蘭州大学が主催校にも関わらず、代表選手が選外に終わりました。今年は、大学から日本語科の主任へ厳命が飛び、何が何でも優勝と大きなプレッシャーがかかりました。4月の末に学内予選を行い、候補選手を絞り、本番直前まで特訓を行いました。本番では残念ながら西安の大学に特別賞をさらわれ、我が大学の代表選手は1等賞に終わりました。これまで上海や武漢でもこのコンテストに参加してきましたが、いつも優勝は主催校の選手で、選考方法を胡散臭く思っていましたが、少なくとも西北地区では公平な選考が行われているようです。

 ところで、蘭州大学の外国人教師は、契約書の中に公開講演を行うという1項があり、講演が義務付けられています。昨年、日本語科では何も指示がありませんでしたので、講演をせず済ませましたが、英語やフランス語の教師達が行ったので、日本語教師も何とかしなければと、講演を行うことにしました。あれやこれやで日程がなかなか決まらず、やきもきしましたが、5月の連休明けの土曜日に講演を行いました。タイトルは「日本企業の特徴 −欧米企業と比較して」と、IBM時代の経験を元に話しました。日本企業は株主よりは会社や社員のために経営を行い、やや長期的な利益を目指す。社員は個々のスペシャリストより、なんでも知っているゼネラリストが重視され、意思決定はボトムアップでなされる。評価は成果よりプロセス(仕事のやり方や姿勢)で行われ、給与は短期的成果より、長期的なプロセスで決まる。仕事の詳細はマニュアルで定義されておらず、状況に応じて対応する。また、社員のキャリア・アップを支援し、育成する。結論は、日系企業へ務めるなら、ある程度長期間勤務しないと損をすると結びました。少々プロトタイプ的ですが、特徴を際立たせてみたいと思いました。講演をするからには、日頃接している日本語科の学生より、他学部の学生に聞かせたかったので、資料(PPT)は日本語と中国語を用意し、3年生の学生に通訳させました。幸い、盛況で、100名あまりの教室が満杯になりました。講演後の質問もよく出て、こちらも楽しむことができました。

 講演の中で、特に給与のところで、短期成果型と長期プロセス型のどちらがよいかと、こちらから学生達へ質問しました。すると案の定、圧倒的に学生達は短期成果型を支持しました。例え減給の危険があってもやったらやっただけもらえて、しかも、経験や勤続年数に左右されずに、若くても高給のもらえる可能性がある短期成果型に人気が高いようです。一般に中国の学生は欧米的です。成果に応じた給与を好み、少しでも給与が安ければすぐ転職します。キャリアも自分で磨き、仕事の内容が自分のキャリア・アップにならないと思えば、これもすぐ転職していきます。また、学生達は、日系企業は仕事量が多く、ストレスも高いと思っています。質疑の中で、私は、短期成果型はリスクが大きく、ストレスが高い、逆に、長期プロセス型の方が昇給はスローだが、リスクが低く、ストレスも低いと話しましたが、どこまで理解してもらえたことでしょうか。最近の日本でも同じようですが、学生達の人気は成果に応じて給与をもらい、なおかつ、ストレスの少ない仕事を選びたいと、少々虫のよいところがあるようです。

注: こうどう山 こう:山偏に空、どう:山偏に同