蘭州近況その4 (2010年12月〜2011年1月)


楡中の冬

 新年明けましておめでとうございます。元旦の朝、いつもより少し早く起きて、萃英山の中腹まで初日の出を見に登りました。しかし、めずらしく曇天で、明るくなるにつれて雪がパラツキだしました。おかげで日の出は見えませんでした。雪は昼まで降り続き、雪景色の正月となりました。日本の年明けはいかがでしたでしょうか。

12月に入ってから楡中の平均気温は0〜−10℃というところです。朝晩は冷え込みますが、日中はさほど寒く感じません。それでも、1月が近づくにつれ、夜になると刺すように冷え込みます。いつもは夕食後にキャンパスを散策していたのですが、それがだんだん厳しくなりました。幸い、室内はスチームのおかげで暖かです。ガスや石油のストーブと違って、暖房器具のまわりがポカポカというより、部屋全体が均質な暖かさに包まれます。1日中蒸気が通っていますから、寝る時も冬用の厚手の寝具は入りません。何だか、10月頃に寒くて震えていたのが不思議なほどです。

楡中では、冬に入ってめっきり雨や雪が少なくなりました。いつもよく晴れた日が続きます。因みに、12月を振り返ると、14日に小雪がぱらつき、24日の朝と晩に雪が降り、その前後の日が曇っていたぐらいで、あとは全て晴天が続きました。高地のせいか、なかなか日射しが強く、日が照ると積もった雪がすぐ融け始めます。それでも、室内で温まった体で外へ出ると、始めは寒さを感じませんが、4,5分もすると足元から寒さが襲ってきます。また、日陰や北側の斜面ではいつまでも雪が残り、道路にも凍った雪がへばりついています。少し前まで近所の農村を散歩すると、舗装の途切れた田舎道では黄土が薄く積もり、うっかりするとひどい土ぼこりで閉口しましたが、雪のおかげで少しはましになりました。こちらに赴任する前に、中国の北西部の甘粛省は酷い乾燥地帯で、黄砂に悩まされたり、喉をやられると聞いてきましたが、幸い、まだ黄砂は無く、喉も正常で、無事に過ごしています。

 

ディベート授業

 今学期は1年生の会話、2年生の会話と作文、3年生の会話を担当しました。教科書がなく、全て自前で授業をしたので、なかなか大変でした。特に、23年生の会話では、学生の学力や気質が分からず、中・上級会話で何を教えるのか、試行錯誤が続きました。それに比べると、初めて日本語に触れた1年生の方が、白紙に絵を画くように思い通りに授業ができて楽でした。

 3年生の会話ではロールプレイ、アンケート発表、面接などいろいろ演習をやらせましたが、最後に、前からやりたかったディベートに取り組みました。クラスが20名ですので、5人ずつ4チーム作り、準備、予選、決勝と3週間かけて行いました。テーマは、予選では「大学生に恋愛は必要か」「社長になるには文科系、理科系どちらが有利か」、決勝では「大学生にアルバイトは必要か」「BMWで泣くか、自転車で笑うか」を選び、それぞれ二手に分かれて討論をさせます。おとなしいクラスでしたので、ちゃんと出来るか心配でしたが、やってみると白熱した討論が戦わされ、感心させられました。

 恋愛では、肯定側は、心身の要求、利害に染まらない純粋な恋愛、恋愛による成長といった観点でその必要性を訴えました。否定側は、失敗時のダメージ、学生生活への影響、時間とお金の無駄といった観点でその必要性を否定しましました。失敗時のダメージというのは、中国の大学では失恋による自殺が案外多いことを指します。また、学生生活への影響というのは、全寮制が原則の大学生の恋愛は四六時中二人で居ることになります。このため、恋人達はクラス活動など授業以外の活動は一切やらなくなります。この勝負は基調説明で優れていた肯定チームが勝ちました。

 文科系理科系では、文科系チームは、社長は文科系の方が視野が広く、総合力がある、専門的な技術力は社員として使えばよい、そして、現代の社長の経歴は文科系の方が多いと主張しました。理科系チームは、現代の会社では高度な技術を理解する力が必要であり、かつ、理科系の方が論理的で柔軟な思考力に優れている、また、社長の経歴も理科系の方が多いと主張しました。この勝負は総合力への反論が足りなかった理科系チームが敗れました。

 3位決定戦のアルバイトでは、肯定側は、自立意識を高める教育効果、親の負担軽減、社会経験の観点で必要性を主張しました。否定側は、学生の本分がおろそかになる、リスクが大きい、単純な肉体作業が中心で社会経験の足しにはならないと必要性を否定しました。リスクとは、仲介業者に騙されたり、給料の不払いなどがよく起こることを指しています。この勝負は、チーム一丸で反論、質問を行った否定側の勝ちとなりました。

 決勝戦はBMWか自転車かで争われました。このテーマは、昨年中国のテレビのお見合い番組で、出場者のある女性が少々いやな男でもBMWに乗って泣く方が、よい男だが金の無い男と自転車で笑うよりましだと主張して、全国でその拝金主義が有名になりました。学生達もよく知っています。BMW側は、理想だけでは生きられない、衣食足りて礼節を知るの例えのように生活の安定が大切、さらに、結婚は二人だけのものではなく家のことも考えるべきだと主張しました。自転車側は、人生は精神的な満足がより大事であり、金で生活は買えない、結婚は愛情が前提であると主張しました。この勝負は自転車側が勝ちました。もともとBMWは臆面の無い金権礼賛が話題をさらったもので、これを肯定するのは少し難しかったようでした。

 長々とディベートの模様を書きましたが、学生達の主張はどれも正鵠を射ており、なかなか感心させられたからです。テーマへの賛否やその理由は、我々が考えるそれらと少しも変わりません。むしろ日本の大学生よりしっかりしているのではないでしょうか。

 

年末のキャンパス模様

 冬に入って寒くなったせいか、すっかりキャンパスに中に閉じこもってしまいました。蘭州へは外事所主宰のクリスマス・パーティーに出かけただけでした。この時も帰りのバスを心配していましたが、幸い、大学側で帰りの車を手配してくれました。通常、楡中へ帰るスクールバスは、平日は19時半、休日は17時半が終バスとなります。遅くなりそうな時は大学に頼むと本部キャンパスの専家楼に泊めてくれますが、何かと面倒なので帰りたくなります。

 1222日は冬至でした。楡中では日の出が740分前後、日の入りが1830分頃です。冬至には湯圓(タンユエン)や餃子を食べるのが中国の風習です。南京や武漢では白玉団子のような湯圓の方が普通だと思いましたが、北西部では餃子でした。この日に裏の市場の食堂街へ行って驚きました。どの店にも水餃と湯圓の貼り紙があり、学生達でにぎわっていました。行きつけの店へ行って普通の料理を頼もうとすると、今日は餃子しかできないと断られてしましました。大晦日や春節の料理にも餃子は欠かせません。中国の特に、北や西の人々の餃子への愛着は並々ならぬものがあるようです。

 24日のイブに雪が降りました。少し積もったのでホワイト・クリスマスになりました。楡中は農村ですのでクリスマス・デコレーションはありません。キャンパスの中にもクリスマス・ツリーはありませんでした。今学期は試験日が近いので行事は自粛だそうです。それでも、24日は3年生、25日は2年生達と食事会を行いました。蘭大のキャンパスでは飲酒はあまり勧めていないようで、校内のスーパーではビール以外のアルコールはありません。クリスマスですから、校門の外のスーパーへワインを買いにでかけました。甘粛省では武威市がワインの産地だそうです。ところで、このキャンパスではクリスマスにリンゴを贈るのが流行です。武漢でもありましたが、こちらではどの店でも一つ一つきれいにラッピングしたリンゴを店頭に並べます。リンゴの中国語の発音はピングオで、イブの平安夜(ピンアンユエ)に食べると一年の平安が得られると縁起をかつぎます。私も学生達からリンゴをもらい、平安夜に食べました。

 12月に入ってから、初めての大学のため試験問題の作り方、試験のやり方、そして、試験の期日と分からないことが多く、やきもきしました。主任の先生に聞いても、期日などは教務が決めるので、ギリギリになるまで分かりませんでした。これまで外国人教師の試験日は最終授業日で、他の先生達より早く試験ができましたが、ここでは他の先生と同じように期末試験期間に試験を行うことになりました。そのため、今週と来週にかけて試験を行います。おまけに、1年生の会話の授業がまだ残っています。おかげで、今学期の作業がすべて終わるのは冬季休暇の前日までかかりそうです。学生達は自分の試験が終わればさっさと帰郷しますが、こちらは採点、成績付けと事務作業が残ります。学生の話によると、この楡中キャンパスは冬季休暇中閉鎖されるようです。閉鎖される前になんとか全てを終わらせたいと思いますが、そんなわけで今期は帰京が遅くなりそうです。