Nゲージ・レイアウト製作記
いよいよNゲージのレイアウト製作に初めて挑戦することにしました。なにしろ二十数年前に一度、 とても簡単なエンドレスのレイアウトを作ったことがあるだけで、ほとんど素人状態です。 今回家庭の中で作るものとしては比較的大きな固定式レイアウトを作るにあたり、何をどのように進めていくのか、 試行錯誤・悪戦苦闘が続くものと覚悟を決めましたが、そこは欲張りの私のこと、どうせ作るなら後々悔いのないようなものを作ろうと考えています。
全体の構想としては、
(1)屋根裏部屋の壁沿い3面いっぱいいっぱいにレールを敷く、
(2)レイアウト・ボードは外へ持ち出すことも考え、できるだけ軽量化する、
(3)制御方法としてはDCCシステムを導入する(経験のない私としては大冒険です!)、
(4)限られたスペースの中で、大型蒸気機関車(ブラス製の”Big Boy” 〜 これは4-8-8-4のうち、 後部の8-4が左右に回転しないため、通過するのに大きなカーブを必要とする〜)が通過できるギリギリのカーブを確保する、
(5)情景としては、大きく四つに分け、向かって左から、@中央駅とその周りの部分、Aトンネルや切り通しを見せる山岳部分、 B中央部(コの字の縦線部)のトレッスル・ブリッジ(構脚橋)と岩肌を取り入れた崖部分、C牧場と田舎の町をイメージした部分、とする、
(6)レールはフレキシブルを基本とし、 ターンアウトなどはDCCフレンドリーのものを使用する、・・・などです。
11月の中旬、ホームセンターでレイアウトの土台となる木材や板などを買い求めました。 軽量化・調達コスト節減の面から、柱は栂材を、レイアウト板用には5.5mm厚のシナベニヤを使うことにしました。 トラック・プランは「コ」の字型で、コの字の横線部分が2.1m、縦棒部分が4.3mの大きさ。但しコの字型ですから、 真ん中部分は大きくえぐれています。部屋全部を占拠するわけにはいきませんから・・・。線路の全長はおよそ20m程度になる予定です。
こうして記念すべき(?)レイアウト製作の第一歩が始まりました。さてさてどうなることやら・・・。
12月初めにはレイアウトの基礎となる支柱とその上に乗せるベースボード(レイアウト板)が出来上がりました。 なるべく軽量化する予定なので支柱も細い栂材(24mmx12mm)で組み立てましたが、後になって、 さすがにこれでは弱く不安定なことがわかり、斜めに補強材を入れるなど、さっそく試行錯誤の始まりでした。
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次に、トラック・プランに従って線路の勾配部分を製作。屋根裏部屋を利用する関係上、天井というか壁というか、 斜めになっている(コの字型の横線箇所)部分があって勾配を作るにも一苦労でした。限りあるスペースでは、 ゆったりとした勾配ではいくらも高くならず山岳部やトンネルもままなりません。それでも10cm程度のアップ・ダウンは欲しいので、 ここでも試行錯誤の上、勾配を3.5%とすることにしました。1mにつき3.5cm登るわけですから、 10cmの高さを付けるには約2.9m走らないといけなくなり、結局、直線箇所だけではこの距離が確保できず、 仕方なくカーブのところでも勾配を付けることで何とか10cmの登り下り可能になりました。まさに、 スペースと斜め天井までの距離との妥協の産物というところです。勾配を付けるための橋げた状ライザーは材木で自作しましたが、 材木を寸法どおり正確に切るノコギリの使い方には随分と苦労させられました。
その間、シーナリー作りは着々と(?)進んで行きました。まず最初に手がけたのはトラック・プラン向かって 右側(コの字の下の横線部分)の一部で、ここは牧場と田舎の町をイメージしています。
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牧場とはいうものの、このスペースの中にどのような牧場を作れば雰囲気を出せるのか・・・・悩んでいた (少しオーバーです!)ところ、紅茶箱の絵柄(アメリカ土産なのにどういうわけかアイリッシュ・ブレックファースト・ティー!) にヒントを得ました。わりと上手く表現できたかな(自画自賛)というところで、牧場の部分は全体の約1/3の作業を終えて 別の部分のシーナリー作りに移りました。
どこ製のレールにするかについては悩みに悩みました。本来はレールを敷設した後シーナリー製作にとりかかるものだと思いますが、 レールの選択に時間がかかったり、ようやく選んだレールやポイント類が品切れ入荷待ちだったりで、その間の時間を利用して情景製作を進めていくことにしました。 ちなみに、レールは米国マイクロ・エンジニアリング社製の55番フレキシブルを買い付け、ポイント類は熟慮のすえ、同社のレールを使って自作している アメリカの個人熟練者に特注することとしました。かなりのコスト高になるものの、見た目が素晴らしく、機能的にも優れていると思っての決断です。 ポイント類はDCCフレンドリーで、フロッグ部分が電気的には絶縁されています。そのフッログにハンダ付けされた1本のリード線をポイント・マシーンの 補助接点に接続することによってフロッグにも通電できるという仕組みになっています。
中央部(コの字の縦線部分)のほぼ中央に、Ebayで入手した米国ウォルサーズ社製のトレッスル橋を据え付けることとし、キットの組立てに入りました。 このキットは最大で15cm位の高さの橋(長さは35cm程度)になりますが、やはりこれでは高すぎるので、10cmの高さに抑えました。 いずれこのレイアウトが一応の完成を見た後、余裕ができれば、このトレッスル橋を含めできるだけ多くのストラクチャーを自作したいと考えています。
トレッスル橋の両側に長い断崖絶壁シーンを作る試みにとりかかりました。米国ウッドランド・シーニックス社のゴム製Rock Mold(岩肌を作るための刳型)2〜3種類とハイドロカル(軽量石膏)を取り寄せ岩石作りに挑戦。慣れるまではハイドロカルと水の混合割合がうまく行かず、 何度か失敗しました。ハイドロカルは日本でも売っていることがわかり追加購入することになりました。
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また、当然のことですが、同じモールドからは同じ岩肌のものしか作れません。長い断崖シーンに変化を付けるため、アルミ・ホイールをくちゃくちゃに した自作の即席モールドやベニヤ板で型を作ったモールドなどを利用してなんとか岩肌のイメージを作り出せたかな、と思っています。 この岩にアクセントを付けるため何色かの緑色パウダーやフォーリッジをあしらえたり、また、小石を演出するために本物の軽石を砕いた物あちらこちらに ボンド付けしたりしました。
作ったHelixが失敗だったことは前に書きました。仕方なくHelixを諦めようかと思っていたところ、定期購読している米国の鉄道模型誌"Model Railroader"4月号に、「信頼できるHelixの作り方」(意訳)と題する手引きが掲載されていました。円の外側をやや高くして「カント」を付けるとか 板をしならせて勾配を持たせるとか、そのような下手なことは考えず、ただただ水平な丸板で作れ、というような手引きです。 (そういえば、前に失敗したHelixは、円を四分割した板自体に勾配と「カント」を持たせるため、わざと「ねじれ/うねり」をつけてあったような気がしています。)
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そこで、5.5mm厚・90cm四方のシナベニヤから外径約78cmの円をくり抜き、内径約72.5cmの円をくり抜くことで、 約5.5cmの幅の「道床」ができあがったわけです。失敗作のHelixと違い、今度は円一周分が一枚の板です。この板に、出来る限り正確に計測した 「床柱」を15cm間隔でビス留めしていくのですが、勾配を付けるための床柱の高さが正しく計算されていれば、均等な勾配を持つHelixができます。 板の左右、すなわち内側と外側は水平をたもつため、気泡水準器を使いました。「カント」は道床自体に付けるのではなく、レール敷設後、 枕木の下にプラ板を敷くことで解決すべきですね。"Model Railroader"はときどき大変役立つ記事を載せており、今回もいい経験をしました。"Model Railroader"さまさまです!なお、画像の中で、Helix中央部に見える黒いベルトはゴム製の道床です。(コルク道床よりも低く、空間の利用度がますため、 2.5mm厚のゴム板を買ってきて円状にきりぬいたもの。)
一応出来上がった山岳部の屋根の部分に発泡スチロールを積み上げることで山の形を作ります。使用する接着剤は、 木工ボンドでも付くには付きますが ホームセンターで入手した発泡スチロール専用の接着剤を使いました。 山の下草のイメージ作りには一部はウッドランド・シーニックス社製の 色付きビニールマットを使い、 他の一部には、単純に濃緑色のカラー・スプレーを吹き付けました。ちなみに、ウッドランド・シーニックス社製の ビニールマットは春草色、夏草色、森山色など数種があり、 いっぺんに広い面積の地面のシーナリー処理をしてくれる点で、なかなかのスグレモノだと思いました。 下草処理の後いよいよ植林です。山岳部手前側は主としてドイツKibri社製のPine Tree(形は松というより杉に近く、密集して植えると日本の杉林のイメージになる、)3〜5cmの高さの木100本入りを2袋使いました。 奥側は主として落葉樹を植えました。ヤフー・オークションで入手した深緑・緑・黄緑3色のジオラマ樹木を約320本ほどみっちり植え込みました。 発泡スチロールは植林にはうってつけの材料だと感じました。
植林前
植林後
「山」(手前側)を持ち上げたところ
「山」(奥側)を持ち上げたところ
この山岳部には全部で7つのトンネル出入り口があります。そのうちの3個は自作、4個はウッドランド・シーニックスのトンネル・ポータルを利用しました。 写真は自作の3つのうちの一つのクローズアップです。
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発注したレール、ポイント類の到着待ち。DCCシステムは届く。(2008年5月)
アメリカに発注したフレキシブル・レールは製品の入荷待ち、特注品のポイント類は「出来上がったのですぐに発送する」との連絡があり、 6月中にはレールの敷設ができるかなと思っています。一方、以前注文していた米国MRC社製の最新DCCシステムのセットがアメリカから届きました。ディコーダー搭載車輌はアサーンの "Big Boy" と "Challenger"以外にまだありませんので、これからこの2車種での試運転になりますが、DCCにはまったくの素人の私故、英文解説書との格闘が始まります!
発注していたポイントとフレキシブル・レールなどがすべて届きました。「レールについて」の項で書いたとおり、レールは米国マイクロエンジニアリング社製のコード55ですので、かなり実感的です。ちなみに自己計測によれば、レール自体の高さは1.4mm、枕木の高さは0.9mm、従って全体の高さはなんと2.3mmという薄さです。 KATO製と比べると1.6mmも低くスケールに近いものです。フレキはウェザリング済みのものを購入し、レールの上面を極く細かいサンドペーパーで磨きました。通電上は磨かなくても良いとのメーカーの話でしたが、見た目にはやはり磨いた方が美しいですね。
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ポイントもマイクロエンジニアリング製のバラのレールで自作された特注品。製作者によると、「Atlas製のコード55ポイントはフランジの高い一部車輌が通過するとき車輪がポイントに当ってしまうが、この作品では大丈夫」とのこと。試してみると、問題なくスムーズに通過するので大満足です。あとは、遅れていたレール類の敷設にこれから取り掛かります。
6月に届いたフレキシブル・レールと特注のポイント類の敷設を開始しましたが、レールはコード55番なので大変実感的な反面、トラックの歪みや特に高低差が出来ないよう注意深く敷設することが大事です。9月の中旬現在、まだ終わっていない状態です。大変に苦労しています。
登り下りの勾配を付けるための橋げた状ライザーは材木で自作しましたが、勾配がスムーズでない部分には微妙なアンジュレーション(上下のうねり)ができていることがわかりました。フランジが低い最近の車輌、特にアサーン社のチャレンジャーやビッグ・ボーイなどで試運転してみると、このようなアンジュレーションがある箇所で車輪が浮き上がって脱輪(脱線)したからです。カーブ線路での勾配はやはり問題が多いだろうから避けた方がいいのでは・・・という当初の心配が現実になってしまいました。
これは致命的な欠陥でした。Helix製作に失敗したときと同様、元から直さなきゃ駄目だと考え、ライザーを一部作り直し、コルク道床の下の基盤も 2.5mm厚のベニヤ板(これは薄すぎてうねりの原因となったと考えられる)を5.5mm厚のシナベニヤに取替え、ようやくその箇所については問題解決といった具合です。このように、線路の敷設は予定よりも大幅な遅れが出てしまいましたが、試運転をとおして線路の安全性・信頼性を確認しながら、少しずつ線路が伸びて行っています。
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信頼性が確認できた箇所には今のうちからフィーダー線を約1m間隔でハンダ付けします。フィーダーには直径約0.6mmの単芯ワイヤーを使っています。「Nゲージの線路ではフィーダー線が隠れにくいため、レールまたはレール・ジョイナーの底部にハンダ付けすると良い」との記述も目にしましたが、ハンダ付けの不良などでフィーダー線がはずれてしまった場合の対応を考え、私の場合はレールの外側にハンダ付けし、道床からレイアウト基板の下へ通しています。線路敷設が終わった段階でフィーダー線を直径1.5mm程度のやや太目のワイヤーに住友3Mのスコッチロックを使って連結する予定です。この太目のワイヤーはDCCの出力端子に接続します。
前にも書きましたが、レール敷設には引き続き悪戦苦闘しています。ある個所を手直しすると別の箇所に問題発生・・・といった具合です。これまでの経験では、
(1)レイアウト基盤は、やはり1cm厚程度のしっかりした板を使った方が良い
(2)勾配部分ではカーブを設けずに出来るだけ直線にした方が望ましい
という教訓を得ました。しかし、ここまで進んだ以上、手直しを続けながらでも先へ行くことにしました。その間、注文していたウォルサーズ(Walthers)社の電動ターンテーブルがアメリカから届き、早速、予定の箇所に仮設置して作動テストをしてみました。あらかじめ機関車が停止する方向(機関庫へ向かう位置)を決めておくことができ、なかなかの優れものです。このターンテーブルは日本製やドイツ製のものより大型で、"Big Boy" サイズの機関車が乗ることがこれを選んだ理由です。ちなみに、写真に写っている機関庫は大昔に購入して保存していたHeljan製です。
レール敷設は今後も少し手直しする必要が出てくるかもしれませんが一応終了して、電気配線に進むことにしました。DCCシステムにするからと言ってギャップが必要ないというわけではなく、基本的にはDCシステムの場合と同じと考えていいのではないかと思います。幸いなことに特注のポイント類はフログ部分が絶縁されているので(というか、絶縁されていることを知って注文しました)、余分のギャップを設ける必要がなくDCCシステム構築には便利です。
前項で書いたとおり、レールへのフィーダー線は多ければ多いほどよい旨のアドバイスがある雑誌に載っていたので、約1m毎に(フレキシブル線路では1本につき1カ所)フィーダー線をレールの外側にハンダ付けしました。直径約0.6mm程度の細いフィーダー線は道床からレイアウト下部に通してあります。
これらフィーダー線は1.5mm程度の比較的太いワイヤーに連結するのですが、いちいちハンダ付けするのは手間が大変なので、これも雑誌に載っていたアドバイスに従い、住友3M 製の2種類のスコッチロックなる配線分岐コネクターを使いました。
確かに、とても便利で配線時間の節約になります。また、配線の失敗や位置換えの場合でも取り外し・再使用が出来る点も便利です。
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片渡りポイントとトータス・スイッチマシーン(2009年6月)
電機配線はひととおり終えたつもりでした。・・・が、思わぬところで時間を喰ってしまうことに・・・。その理由は:−
すべてのポイントに米国Circuitron社製のトータス(”Tortoise”)スロー・モーション・スイッチ・マシーンを使うことにし、これらを同じ米国DCC Specialties社製のアクセサリー・ディコーダーである”Hare”または”Wabbit”でDCC作動とすることにしたこと、さらに、リバース区間の自動運転のためのアクセサリー・ディコーダーである”PSX-AR”を導入することにしたこと・・・などなど。このため、これらの品物をアメリカから個人輸入したり、膨大な量の取扱説明書を辞書と首っ引きで和訳したり・・・で、レイアウト製作そのものは小休止状態です。計画性が無い、と言えば確かに無かったのですが、もともと走りながら(ではなく、歩きながら)のプロジェクト進行と決めていましたので、まあ、仕方ないかと自ら納得している次第です。
スイッチ・マシーンになぜトータスを選んだかというと、ポイント転換がスロー・モーションであることとアクセサリー・ディコーダーとの適合性に優れているように思われること、の2点です。トータスは日本でも販売されてはいますが、多量に使うとなると輸入の方が安くつくようです。
取り寄せた製品のうち、トータス・リモート・マウントというものを試しにレイアウトに組み込んでみました。レイアウトの片渡り(ポイント)にリモート・マウントを適用することで、片渡りの二つのポイントが1個のトータスで同時に作動します。これは経済的でもあり、なかなかの優れものです。写真はレイアウト板の表側が片渡りの二つのポイントが列車の進路に沿ってシンクロされた状態に動いたあとの様子、裏側が1個のトータスがリモート・マウントで2個のポイント・マシーンを同時に動かすための「部材」を映したものです。